太極拳の成り立ち<1>無極から太極へ

そもそも太極拳はその昔「開合拳」と呼ばれていた。

 

太極拳の根底には”すべて”(宇宙をも含めて)の成り立ちについての古来からの観方がある。

簡単に言えば、①混沌とした「無」しかないところから、②なにか動きのある「点」のようなものが生まれ、③それが直ちに陰陽に分かれ(ここで天地創造!)運動を開始し、次第にに万物が生まれてきた、というもの。

 

 この①から②に至る過程が、「無」が極まって「太極」が生まれると表現される。

ちなみに、「太」という感じは「大」と「小」を合わせたもので、意味は「大より大きく、小より小さい」である。その「太」が極まったのが「太極」であるから、そのスケールは想像を絶するほどのものになるに違いない。

 そして②から③は、「太極」が分かれて「陰陽」になる、と言われるが、「太極」は生まれたとたんに動静運動(陰陽運動と言い換えても意味は同じ)を開始するから、「太極即ち陰陽である」という言い方もよくされる。

 陰陽に分かれた後は、陰陽太極図で示されるがごとく、ひたすら陰陽循環が続くことになる。

 

  ここでもう一度整理。

  ①→②は「無極」→「太極」、

  ②→③は「太極」→「陰陽転換」、ということになる。

 

 さて、太極拳の元の呼び方は「開合拳」だと言ったが、それは、もともと「開合」を元にする拳法が存在し、後に、その理論的根拠として上記の古から伝わる右宇宙観を持ち出してきたという見方もある。

 確かに「開合」というところを、「陰陽」と言い換えてみると多少哲学的に聞こえるし、「陰陽」をさらに、「太」が極まる「太極」に言い換えてしまうと、さらに深淵で壮大な感が醸し出されるような気がしないでもない(これはあくまで個人的感覚)。

 

 ここで経典をひも解いてみると、「一開一合、拳術尽矣」とある。拳法の”技術”は開合に尽きる、という意味である。

 しかし、(真の)太極拳では、”技術”以前に「功夫」(体自体のパワーをつけること)を重視する。「一に功夫、二に胆力、三に技巧」という文句は有名である。

 どんなに技術を学んでも、本人の体に力がなければ威力は出ない。真に功夫のある人は、技術など使わずに体当たりだけで相手を負かすことができるというほどである。

 

 ・・・ここで、何故太極拳の練習であれほど静功(站樁功や坐禅)が重視されるのか、端的に言えば、なんで立たなきゃいけないの~?という、生徒さん皆の疑問に思い当たる。これまでどれだけうまく説明しようとして、全くうまくいかなかったか・・・。今この文脈で説明すると、一言、「パワーをつけるため」である。「功夫」をつけるためである。

 そしてそれは、上に書いた①から②の過程、即ち「無が極まって太極が生まれる」を我が身で行うことである。だから、「無極站樁功」(ただ立つこと)をして、じっとエネルギーを溜め、「無」が極まり、身体の中に「太極」が生まれるのをひたすら待つのだ。

「無」が極まれば自ずから「太極」が生まれるのであるから、その間は妊婦のように待たなければならない。毎日お腹の中の子どもが少しずつ大きくなっていくように、自分の体調に万全の注意を払って(注:男性の場合できるだけ精気を漏らさないようにして)気が育つのを待つ。少しでも早く産もうと頑張っても意味はない。

 

 「どうやったらうまく立てるのですか?意念はどうするのですか」等いろいろな疑問も出てくるが、実は、丹田に集中すること以外、大したコツはない。頭をいくら使ってもダメという例。それがまた辛いところでもありおもしろいところでもある。諦めて立つしかない。立つことによって何かを達成しようという気持ちが消えてしまった頃、即ち、立つこと自体が目的になった頃に、何かが起こったりするから、その妙は筆舌に尽くしがたい。(と言いながら、これまでも多くの老師達によって站樁功のコツや更なる効果について口伝の形で残されている。私ももう少ししたらまとめてみたいもの。これも言葉にならないものを言葉する挑戦。)

 

 そして「太極」が生まれエネルギーが体の中から湧きだしたら、それを使って「開合運動」、即ち太極拳の形が生まれてくることになる。ここから先は、一方でエネルギーが枯渇しないよう産出を続けつつ、開合運動の繰り返しになる。そして最後収功する時に気を丹田に戻し、また無極に戻っていくのである。全てはその「無極」→「太極」(陰陽開合)→「無極」→「太極」(陰陽開合)の循環である。

 

 次回、<2>陰陽開合へ続く。

 

 

 

 

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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