太極拳と気功はどう違うのですか?

 太極拳は気功法の一種です。そして武術でもあります。いわば、「気功法を使った武術」です。

 太極拳は気功法ではあるけれども、気功法には含まれない技術的な要素も多々あります。そのような関係を端的に表すのに、「太極拳を教えられる者は気功も教えられる。しかし、気功を教えられるからと言って太極拳を教えられるとは限らない」と言った中国の老師もいます。

 

<一言で、気功法の原理とは?>

 

 気功法というのは「気」(人間のパワーの源となるエネルギー)を使った心身調整方法で、その種類も多岐にわたり功法の数も何百、何千あるといわれます。

ただどの功法であってもその核心が、「①邪気を出し良い気を溜め、②その良い気を身体に巡らせる」ことには変わりがありません。

 

 簡単に言うと、気功法の原理は、「①気を溜めて②循環させる」という、溜めて(合)→廻す(開)→溜めて(合)→廻す(開)、の繰り返しです。

(溜めるは身体の中心に向かってエネルギーを集めることなので『合』、循環は身体の中心から外向きにエネルギーが拡散していくので『開』、と表現できます。)

 

①気を溜める、の代表的な練習方法は、静功、即ち、坐禅や站樁功です。

②気を循環させる(経脈を通す)、の練習方法は限りなくありますが、所謂、導引術(文字通り、気を導き引っ張る)全て、有名な八段錦や五禽戯、易筋経はこの目的のものです。

通常、練功者はこの①と②を併せて練習します。

 

<気功法として見た太極拳の練習>

 

 さて、太極拳の練習は大きく4つ、(1)静功、(2)動功、(3)套路(所謂”太極拳”。24式、48式など技を続けた動作)、そして(4)推手(2人で行うもの)にわけて行われます。

そしてどれも気功法であるのですが、動作が複雑になればなるほど、意識が動作にとられてしまうため、(1)→(4)の順で、「気を溜めて循環させる」ということが難しくなります。

そこで通常、静功(站樁功や坐禅)でしっかり、気功法の基本を身につけ、次第に套路で動いていても站樁功と同じような状態に入れるように練習していきます。

 

 具体的には、

 練習の初期のうちは、(1)静功は①気を溜めるの目的、残りの(2)(3)(4)は②気を循環させる目的と分けて行います。

 即ち、

(1)静功(站樁功や坐禅)では、①の気を溜める(もちろん丹田に!)ことをしっかり行います。

(2)動功では、(1)で溜めた気を体内で循環させます。

(3)套路では、さらに複雑で難易度の高い動作によって(2)では巡りきっていない身体の部位にまで気を届かせます

(4)は中級者以上の練習で、気を循環させる際の、気の運用の仕方(コントロールの仕方)について相手を使って学びます。

 

 そのうち練習が進んでくると、

(1)の静功で①気を溜め→②循環させる、を行うようにします。

(2)の動功でも「気を煉る」ことによって②だけではなく①も行うようにします。

(3)で②と並行して①を行うのは更に難しくなりますが、どんな動きの中でも「意守丹田」を徹底することによって①気を煉り蓄えながら、②循環させるようにします。

(4)でも理論的には)(3)と同じはずですが、①を行うのはマスターの域だと思います。

 

<おまけ:自発功と站樁功の違い>

 

 ここで生徒さんから質問がありました。

 「站樁功の時に身体の中がブルブル震えているようなのですが、この時、身体もそれに合わせて動かしてもよいのですか?」というものです。

 気功法の中には、「自発功」と言って、身体の内動にあわせて自由に身体を揺すったり動かしたりすることで、身体の本来の自然な状態を取り戻そうというものあります。これは身体の詰まり(ブロック)を取るのに効果的です。

 質問のように、もし站樁功中に内動に合わせて身体を自由に動かせば、それはこの「自発功」に限りなく近くなります。

 

 しかし站樁功の目的は、まず、「気を溜める」ことにあります。そして丹田に気が充満して、自ずから気が体の節々を開通させ循環するようになるのを待ちます。

 

 それに対して、自発功では気を循環させることに眼目があり、気(エネルギー)を溜める過程が含まれていません。それ故、通常、自発功を行う練功者は、まず坐禅や站樁功をして丹田の気を溜め、それから自発功を行っています。それは、気が溜っていない状態では、体内を循環させるものがとても少なく、気持ちよさ以外の具体的な効果が出にくいためです。

 

 また太極拳の気功法では「意念」(意)を非常に重視します。「意が気を導く」ということを徹底し、「気」の全ての動きを「意」の管轄下に置くことも重要な練習です。

自発功においても上級者は最後まで一番奥の意念を外さずに身体が自由に動くのを遠くから見守ることができるのですが、多くの人は、身体が自由に動き出すと「意」が遠のき一種のトランス状態に入ってしまいます。そうすると文字通り「地に足つかず」という状態で足元を救われ、気功の練習が横道に逸れる危険があります。このような精神的、心霊的な部分はとても微妙で一度逸れると戻すのが非常に大変なので相当の注意を要するところです。

その点、太極拳の練習では常に「意守丹田」で「意」を外さないため、精神的にもとても安全です。(太極拳の練習をして精神障害になる人はいないが、少なくとも中国では気功法を練習して精神障害に陥る人は少なくない、というのもこのようなところと関係あるようです。)

 

以上

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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