2021/8/31 <開胯の問題点>
円裆に関連して。
私が教わってきたのは『松胯 园裆』。だけれども、これを『开胯 园裆』と言う人たちもいるようだ。
松胯しないと园裆にならない・・・が、私自身、园裆にしようとして”开胯”をやっていたと気づいたのはそれほど前のことではない。骨盤の歪み、左右差が気になるようになって初めて間違った意味での”开胯”をしていたことに気づいた。ようは、股関節を開こうとして腸骨を開こうとしていた、ということだ。
中国の生徒には『开胯 园裆』として下のような画像がある。https://www.sohu.com/a/308487460_482904
https://kuaibao.qq.com/s/20191213A0AXND00?refer=spider
いずれの図も、左右の腸骨を外に引っ張るように矢印が描かれている。
腸骨を左右に引っ張って骨盤を開く?
いや、少なくとも私たち女性は骨盤は開かないように、というのが定石だ。もともと骨盤が狭くて頑張ってもそんなに開かない男性とは構造が違う。すぐに開いてゆるくなる。産後は骨盤を締めるし、産後でなくても骨盤ベルトで骨盤を安定させたりする。師父も私に骨盤を開くように言ってきてそのようにしてきたが、ある時、これはおかしい、と思った。解剖学的に調べたら、腸骨は安定させることで股関節の球がスムーズに回る、ということを知った。腸骨がグラグラすると股関節の支点が不安定になってかえって股関節が使いづらくなる。
私が以前一緒に中国武術を学んだ仲間の中に、股関節を痛めていた女性がいたが、やはり彼女の腰はかなり開いていた。男性なら腰が開いてよかった、となるのかもしれないが、女性は気をつけないと骨盤がゆるくなってしまう。
前々からそんなことを考えて、女性と男性は少し異なる意識で練習した方がよいと思っていた。もちろん、男性でもむりやり腸骨を左右に引っ張り出すと股関節を痛めるか膝を捻ってしまう可能性がある・・・
と、さらに調べていたら、中国サイトの中に、はやり”開胯”に対し問題を提起しているものがありました。
http://baijiahao.baidu.com/s?id=1663107325664498573&wfr=spider&for=pc
このサイトに書いていること、そしてずが興味深い・・・
続きはまた・・・
<追記>
その後、骨盤の要領は『男は撑 女性は裹』だと師父から教わりました。
2021/8/29 <王長海老師 円裆>
劉師父は河南省鄭州の出身でその師は王長海老師だった。
王長海老師は陳発科(陳式太極拳第17代伝人)の息子の陳照奎(第18代)に拝師していたが、陳照奎が亡くなり数年喪に服した後、同じ第18代の馮志強老師に拝師して混元太極拳を修めた。
王長海老師は鄭州で混元太極拳を教えたが、その弟子、生徒の数はとても多く、かつ、レベルも高かった。馮老師からの信頼が最も高かったと言われている。
私は王長海老師に直接お会いする機会はなかったが、劉師父から王老師の功夫の高さ、そしてその温厚な人柄、人徳のある方だったということを聞いている。王老師は5年ほど前に逝去された。
師父の24式の見ていたらその師の王老師の套路を見たくなった。温厚な感じのする套路だ・・・劉師父が若い頃、劉師父に対し「小劉よ、お前は酒をやめたら功夫が倍に高まるだろう。」と優しく言ったという。目上の人の言うことをそんなに素直に聞くタイプではない劉師父だったが、王老師の言葉は素直に受け入れたらしい・・・そんなエピソードを思い出しながら見た。
その後中国のサイトで王長海老師のことを検索していたら、若い時の写真などが出てきた。
左は若き日の馮志強老師と王長海老師。物欲に塗れていなかった頃の中国、私の好きだった清貧の中国・・・が、劉師父に言わせればただ貧しかっただけ、清かった訳ではないそう。どちらにしろ、毎日の労働をしながら太極拳に打ち込んでいた両老師の顔が清々しく感じる。
そして右は見事な园裆。橋の構造のようになっている・・・と、骨盤の中に描かれる2つのアーチを思い出した。
←http://ckirax.blog10.fc2.com/blog-date-200905.html より
図の詳しい説明は上のリンクを参照してもらうことにして、骨盤の中には図の中の赤線のアーチと青線のアーチが存在する。
王長海老師の円裆を見ると、この2つのアーチが再現されているように見える・・・そもそも円裆とは、骨盤にかかる力の分散のために必要なものだったのでは? と気づきました。
青のアーチだけではダメだし、赤だけでもダメ。2つのアーチが必要だ・・・低い姿勢で行う套路ではともすると青アーチだけで踏ん張っている→赤アーチが十分に働いていないから上の重みで股関節以下に負担がかかる。逆に高い姿勢の套路では特に青アーチが不十分で足に力が抜けない。
少し前に円裆について書いていて尻切れとんぼになっていましたが、ここで新たな視点を得たよう。(私的にはとても面白い観点なので明日の練習でいろいろ試してみる予定。)
・・・にしてもこの若い頃の王長海老師の单鞭の定式の雰囲気は劉師父に似ている。明日師父に写真を見せてあげよう♪
2021/8/26 <カメラマンになって師父の動画を撮影した>
今日は師父にお願いして24式の第六式から第十式までを撮影させてもらった。
混元太極拳を学んでみたいという生徒さん達が自主的にネットで繋がって練習会を始めたのを知ったのだが、できれば最初から師父の動きを身近に感じて欲しいと思って撮影をした。この前、空手のサンドラ選手の話を書いた時に、やはりイメージが大事!と痛感したからだ。太極拳と聞いてどんなイメージを持つのか、中国の公園で一斉に練習しているようなものをイメージするのか、それとも武術的なもの、カンフー映画に出てくるようなものをイメージするのか、これで全く違う太極拳になる。
私自身は馮志強老師が代々木体育館で演武をした時子供を膝に抱いてその演武を真正面で見た、その時の感動、印象がずっと底辺に流れている。その後劉師父に出会って本格的に混元太極拳を学ぶことになるのだが、劉師父が最も尊敬しているのは馮老師、馮老師が進もうとしていた”太極の道”を私に教えようとしている。放松と柔らかさを重視する。
私は師父の後ろ姿を見ながら練習しているが、今日はまず、私が毎日見ている師父の後ろ姿をそのまま映してみようと思った。縦画面で追いかけてみた。カメラを固定して映すよりも師父の気の動きが感じられるのではないかなぁ?
そしてその後に前面からも撮らせてもらった。
また、試しに第六式から第八式をショート動画として編集してみた。ショート動画は1分以内で2、3式を繰り返し練習するのによさそうだ(繰り返し再生するには画面の動画の上で右クリック→メニューのループ再生を選択)。私はショート動画が使いやすいかなぁ〜。
徐々に動画を増やそうと思う・・・私が帰国後に参考にするライブラリー作りが始まった。
2021/8/25 <股関節のハマり具合に注意 大腿骨骨董を中心に引っ張っておくと股関節が開きやすい>
昨日書いたカエル足、今日のビデオレッスンの生徒さんに試してもらったら、いとも簡単にできてしまって驚いてしまった。あれっ?と一瞬目が点に。
そもそも彼女は片方の股関節が開きにくいというから、まずはハードル跳びの形を試してもらった→左の画像
(このポーズのまま体を前に倒すと腰痛に効くらしい https://mankaiseitai-oita.com/youtu-sutoreti/)
彼女はこのポーズは苦手です、と言ったが、このポーズが苦手の生徒さんは案外多い。上体がまっすぐ立たない、前に向かない。それは体の捻りが足りないせい。(前後の弓歩、中でも『斜行』ではこの捻りが必要になる。)
これが苦手ならカエル足で座るのは無理かと思いながら一応彼女に試してもらったら、あれ、なんてことなくできてしまっている。彼女のカエル足の座り方はおばあちゃん座り(アヒル座り)とほとんど変わらない。足首を曲げた分、アヒル座りよりは少しキツイとはいうけれど、見た目は大差なし。アヒル座りから足首をフレックスにしてカエルになるとググッとお尻が持ち上がって背中も持ち上がるはずなのだけど・・・ が、彼女の”カエル”はお尻が開いて体が落ちてしまっている。
ここで気づいた。
女性の中には股関節ではなくお尻で脚を開いているような人が思いの外多いということ。
蹴る足になる時(股関節の内旋時)は、お尻の中央の左右の線、昨日の仙骨の八髎のライン(左図の緑の2本の縦線)から左右にお尻を割るようにするのが理想的。お尻は桃のように真ん中から割れる・・・
が、女性の場合は、ともするとオレンジのラインあたりから脚を内旋させてしまう(それができてしまう)。お尻が広がってしまい股関節がちゃんと回転していない。
おばあちゃん座り(アヒル座り)が良くないというのは、左のオレンジの部分を開いてしまう結果、お尻が広がり会陰が緩み股関節のハマりが浅くなったり腸骨が広がってしまうから。猫背にもなる。頭が立たない。
これに対しカエル足座りの場合は、足首をフレックスさせることによって骨盤が立ち上がるようになっている(はず)。
なのにカエル足でも)お尻が広がって体が落ちてしまうのは股関節の意識が外にズレているから。
今日の生徒さんの問題は股関節の球(大腿骨骨頭)が外に引っ張りだされたようになっていることだと判明。そこでカエル足座りの時に、両手を使って股関節をグッと内側に押し入れるような感じにしてもらった。
すると”効く”感じが出てきたという。
同じ要領を使って(股関節のあたりに両拳を当てて、その拳を内側:恥骨に向けて引き入れるようにすることで股関節の球をはめ込んだまま)両足を広げてスクワットをしてもらった。どんなに体が下がっていっても、股関節の球は中心に引き込んでおく、広げない。すると、面白いことに股関節が開きやすくなる。
つまり、レッスンの最初に、彼女が「私の右の股関節は開きづらい」と言ったのは、実は股関節の球を引っ張り出していたために(上の赤の矢印)股関節の凸凹がかみ合わず回転しにくかった、ということだった。引っ張り出してむりやり股関節を開こうとすると、膝が捻れて痛んだり、股関節が痛んだりする(私も経験者なのでよく分かる)。本当に気をつけなければならない。
特に女性の場合は、股関節を内向きにちゃんとはめ込んで股関節を回転させるように注意する必要がある。タントウ功、坐禅の時も同じだ。椅子に座っている時もそう。股関節の球を恥骨の方に近づけるような感じかと思う。そうすると弓歩やスクワットで動いた時に股関節の開きが良くなるのが実感できるはずだ。(男性の場合はそもそも股関節が硬くて無理やり開こうとしてガニ股、O脚になる場合が多いかなぁ? でなくても、加齢とともにガニ股おじさんが多くなる傾向があるような。お腹が出てくるとガニ股になると以前ある老師が言っていた。股関節内旋の練習は必須)
太極拳の要領には「股関節の球をはめ込んでおく」というものはなくて、それは『提会陰』に含まれていると思う・・・会陰を引き上げると股関節の球は中央に引っ張られたようになる。会陰を落とすと両股関節の距離が広がるようになる。『円裆』も『提会陰』=股関節の球を引き込んでおく のが前提。180度近い開脚をしようと思ったらかなり意識的に会陰を引き上げて両股関節の球を中心に引っ張り込まなければならないのと同じ原理だ。会陰が落ちて股関節の球がどこにいったか分からなくなると股関節はロックがかかって開かなくなる。
ともあれ、股関節の開きが悪いと感じる原因は、股関節のハマり具合が悪いからかもしれないので注意してみて下さい。
2021/8/24 <アヒル足とカエル足 仙骨の八髎>
バカンスも終わり師父もパリに戻ってきた。今日から練習再開。
パリでの練習はおそらくあと2ヶ月余り。それまでに学べることは学んでおきたい。
師父がいなかった三週間の間、私はもっぱら体の左右差をなくすためのエクササイズをしていた。内功はしていたけれどタントウ功や套路は少しだけ。最も力をいれていたのは(といっても時間的には10分足らずだけど)前後開脚と”カエル足体操”。
前後開脚は胴体の捻りのため、カエル足体操は体全体の調整のため。カエル足体操は宮川眞人氏の『病気にならない整体学』に載っているものだが、太極拳や坐禅で股を開くことが多く”合”が足りなくなっていることに気づいて、体の”合””絞り”を得るために始めたものだ。やってみるとかなりキツくて、最初の頃はメゲそうになったけれど、毎日少しずつやっていったら、宮川氏のいう”腰に弾力が出る”という意味が分かるようになったし、套路をすると股関節、鼠蹊部の動きが以前より良くなっているのが分かるようになった。
←仙骨にある縦二列に並ぶ4つの穴(八髎)
この縦二列の感覚がはっきりした(といっても左の感覚ははっきりしているけど、右の感覚はあったりなかったり)。
この八髎は膀胱経の一部。
師父は昔からこの二列(図の赤線)を重視していてマッサージで推されて痛い思いをした。なんでこんなところを推すのだろう?と思ったことがあったけど、今になってやっと、ここが通らないと股関節や裆、そして腰も自由には使えないのだなぁ、と分かった。(いつものことだが、分かってやっとそれまで分からなかったことが分かる。ということは、今分かったつもりでも、将来、今本当には分かっていなかったことが分かるのかもしれない・・・常に、現時点での理解、ということだと思う。)
ちなみに画像のオレンジの丸は腰の弾力の場所。
今日の練習ではチャンスーの話から雲手の動きのチェックをしてもらった。「2、30年練習している人達から言わせれば、雲手の動きを見ればその人の太極拳の水準が分かる・・・」と師父は前置きをして、「雲手には手足のチャンスーの連動がすべて含まれている。これが完璧にできれば・・・」と私の動きを見て、「大体良いが、」と、右腕の動きを直してくれた。 練習の最後にやった単推手では、「以前は右手はよくて左手はいまいちだなぁ、右手が利き手だから仕方がない」と言われていたのに、今日は、「どうしたんだ?左手が右手よりも良くなっている。」と師父が驚いていた。私が、「雲手の時も左の方が良かったのでは?」と言ったら「そうだ、右の動きが悪いのは気づいていた。」と師父。
私は心の中で、「この休みの間にある練習をして仙骨の左側のラインが使えるようになったから左脚(左半身)の内旋が前とは全然違うのです。」と応えていたのだが推手中で中国語に変えて喋る余裕がなかった。もし日本語でしゃべれるなら、きっとカエル足体操の話までしていただろう・・・そして実は包丁も左手で使うようにしていることまでも。
宮川氏の著書は難しいのだけど太極拳の練習をしながら徐々に解読できるようになってきました。骨盤体操は特に女性の生徒さん達に勧めています(https://youtu.be/1R6TGRn62w0)。といっても、男性もこのくらいの柔軟性が望まれる(師父は問題なくできます。)
下は難易度の高い”カエル足”。これは男性にはキツイと思う(ズリ這いの形は師父は得意なのは知っているけれど、これで座るのはできるかどうか?)
上のカエル足と似て非なるのは右の”おばあちゃんずわり”(アヒル座り)。
足首を90度にフレックスにして”アヒル”から”カエル”にするだけで一気に難易度が上がる。(のはなぜ?)
足の甲をべったり床につけていると、体は下に沈む。下向きのベクトルのみ。
足を頑張ってフレックスにすると、グググっとお尻や腰が持ち上がってくる。会陰や肛門も上がる。ヒップアップする。
これが、氾臀の正体だと私は思う。
(足首を直角に曲げることで=フレックスすることで、足指の末端まで経つながっているのが実感できる。ここまで繋げて初めて頭頂が出てくる=頂勁 のが分かる。)
アヒル座りでお尻がべったり床につく=これは斂臀。それからお尻が床から離れないように、足首を90度にフレックスする→お尻がアップする=これが氾臀
斂臀と氾臀を併用することによって骨盤が立ち、抜背、頂勁が可能になる。
足首から先の動きで体がこんなにも変わってしまう・・・
それはチャンスーの時も同じ。足首、足の中の指がちゃんと使えないと手まで勁が伝わらない。足首は難関・・・カエル足で少しずつ調整している最中です。
2021/8/22 <チャンスーにまつわる話>
手を使ったほとんど全ての動きが順纏か逆纏になっている・・・それに気づいて自分の動作がどうなっているのかしばし観察していた。
ご飯を食べる時、お茶碗を左手にのせて上げる・・・この動作は? ああ順纏。下ろす時は・・・逆纏。包丁を握ろうとしたその手は・・・順纏。切る時は逆纏。オーブンの取っ手を握って引っ張って開ける時、ともすると私は力任せに引っ張ってしまうけれど、微妙に逆纏を使えば腕の負担が少ない。 バナナの皮を剥きながら、これは? 手前の皮は逆纏。バナナの向こう側の皮は順纏。顔を洗おうと両手に水を掬う時は順纏、掃除機をかける時は・・・こちらの掃除機は馬鹿でかくてとても重い。かけているうちに順逆を観察する余裕がなくなり力任せになってしまった・・・余裕を持って丁寧にやれば順逆を意識的にできたはず。ヴィパッサナー瞑想で体の動きを見ると最終的には体の動きは「伸びる」と「縮む」しかないのが分かる、とスマナサーラ長老が言っていたのを思い出してしまった。「伸びる」は逆纏=開、「縮む』は順纏=合、同じような観察結果になる。
手を使ったチャンスーについて文章で順序立てて説明できるかどうか分からないので、そのあたりの話を動画に撮りました。いつものことながら、喋りながら話が展開していって思ったよりも長い動画になってしまいました。もっとポイントを絞って説明できるようになれば良いと思います(毎回同じように反省しながら毎回ぶっつけ本番で喋ってしまっている。苦笑)
ポイントは、
①橈骨を回してから(逆纏)尺骨を回す(順纏)。(順序を変えると抜けやすい)
②橈骨を回す時は腕の付け根から、尺骨を回す時は小指から。
③肩から指先までは弛ませないで伸ばしておく。(最初は手首をフレックスしてやってもよい)
④ぐっと脇や背中が引き上がったら成功(腕と胴体が連動)
⑤あとは脇や背中の引き上がりや胴体の絞りの感覚を消さないように、手の向きを変えてみる。
⓺上のエクササイズの後に、太極拳のチャンスーの形(動画でやってみせたもの)をやっみるとその素晴らしさが分かる(うまく上手くいかない場合は目の内収、含胸、腹のチカラを見直すとよいと生徒さんが助言してくれました)。
最後に動画で紹介した太極拳の基本的なチャンスーを使った馮老師の纏糸功(2つ)、そしてその応用としての肘技を紹介しておきます。
2021/8/21 <チャンスーの特色 手指・前腕からのチャンスー チャンスーは体を守る>
今日はzoomで纏糸(チャンスー)勁を教えた。
チャンスーは丹田がしっかりして下半身に気が通り足裏がしっかり地面に貼りつくようになった後に練習するのが効果的だ。腹がしっかりしていないと、言われた通りの動作をしても勁がすっこ抜けてチャンスーの感覚が得られない可能性がある。
今日のレッスンの目的は、チャンスーがどんなものか、その感覚を体験させるもの。前腕から指先までの回転を使ってそれが上腕、そして腋、肩甲骨、そして背中、骨盤へと繋がる感覚が分かるように順を追って教えてみた。途中で脱落させない、これが私の目標。
最終的にチャンスー勁がしっかりかかると、首筋が伸び、肩が沈んで開く。肘、二の腕(肱)や脇には力が出て、背中、腰、骨盤がググッと立つ。手腕のチャンスーがしっかりできれば腰を腕で持ち上げられるから腰も守るだろう。
今日は床に座った形、もしくは正座の形で手腕のチャンスーによる上肢と胴体の一体化を試みた。最後に立位でやってみたが、生徒さんを見たら脚のチャンスーの形がまだできていない(膝下が通っていない)ため、全身のチャンスー、即ち、上肢と下肢の一体化までは実現できなかった。脚は今後の課題。
チャンスーの原理を頭で理解して、それから体で多少でも経験しておけば、その先、その感覚を逃さず膨らませていくように練習していけばいいだろう。 私もまだまだ過渡期だ。
今日のレッスンの内容を文章でまとめるのはかなり大変そうなのでいずれ動画で撮るかもしれません。
そして、続きを書こうと思って書いていない女子 の空手形の話は、まさにチャンスーの話でした。オリンピックで優勝したサンドラ選手の動きはチャンスー勁がある、が、一方の清水選手はチャンスー勁を使っていない。
チャンスー勁を使っている方が四肢が繋がり身体が一まとまりになるので、速さ、キレが出てとても有利になる。ジャンプの時は特にその差が歴然としていた(左は2018年の大会のもの https://youtu.be/32lkz2UfBY4)
サンドラ選手の形には常にぐーんとした伸びがある。これがチャンスーの印。
足から頭頂までらせん勁で繋がる。
『力は踵から』の例。
清水選手はチャンスー勁ではなく各々の筋肉のパワーで動いているので全身を貫く伸びる勢いが見えない。
左の形だと、右足は床を踏むことで背中を通って左手のジーへと繋がるが、写真を見る限り、彼女の右足裏から力は太もも、もしくはお尻で止まっている。
上半身と下半身が分断しているのでサンドラ選手と比べるととても不利だ。
二人の動作の比較は上のyoutube動画の最後の方にあるので、それを見るとチャンスーのあり、なしでどのようになるのか分かるかもしれません。
空手の流派の中でも彼女らが演武している糸東流は中国武術に近い感じがします(松濤館流になるともっと直線的でチャンスーの感じはほとんどない感じ。)
私がよく思うことだが、空手の形や太極拳などは両足を開いて中腰姿勢になることの多いので特に女性は注意をしないと骨盤が開いて下半身ばかり大きくなってしまう。下半身が重くなる(太くなる)と動きが鈍くなるし、股関節や膝を痛める原因になるし、内蔵下垂にもつながりかねない。会陰を上げておく、というのはそのカウンターだが、男性は会陰の引き上げだけで足りるかもしれないけれど、女性は骨盤をむやみに開かないように注意するべきだ。股関節を開いても骨盤は開かない。骨盤を開かずに股関節の玉を回す。内臓は引き上げておく。脚が重いのが『上虚下実』ではない・・・
その点40歳になるサンドラ選手の体型は理想的だ。骨盤が開いていなくて身軽だ。
聞いた話によると、サンドラ選手は孫悟空になりたくて空手を始めたそうだ。日本人で孫悟空と空手を結びつける人はいない・・・そもそも思い描くイメージが違う・・・どうりで、彼女のトレーニングは普通空手を学ぶ人がしないようなものだった(上のyoutube動画を冒頭を見るとわかります。)。腹出しルックで空手をするなんて日本の女子の選手には考えられないけど、腹(スタマック)を出すことで中丹田が自然に鍛えられている気がしてならない。40歳にしてあのような俊敏な動きができるのは腹(内蔵)の強さかと思ったりする。私もお腹を出して練習してみようかしら・・・なんて真面目に思ってしまったのでした。(こっちの人はおばさんでも腹出しルックでジョギングをしてたりします。若い子は冬でもコートの下は腹出しだったりする。)
と、空手の話を書く予定ではなかったのだけど、思わず書いてしまいました。
一番最初の手、前腕からチャンスーをかけていく話に戻すと、知っておくとよいと思うのは、太極拳で、”手は松する”、と思って手を脱力してぶらぶらにしていたのではチャンスーはかけられないということ。太極拳の上肢の要領は『沈肩、墜肘、松腕、垂指』(松腕は松手首、という意味)。これらの要領はチャンスーをかけた時の状態を指しているとも言えます。
チャンスーは丹田から四肢の末端へ、という流れと、末端から丹田へ、という流れがある。今日試してもらったのは末端から丹田に向かったの流れ。「手指・前腕」の理解が必要。
まず知っておくべきなのは、指は前腕までつながる、ということ。手指は前腕の一部分とも言える。指を動かしているのは前腕。手首で手と前腕を断絶させてはいけない。掃除機のホースは曲がってもよいけど折れてはいけない、同じように手首は曲がってもよいけど折れてはいけない・・・
そういう意味でこの「指には筋肉がない」というブログ(https://acogihito.exblog.jp/11596202/)を読んでおいてもらうとその先の話がしやすいかと思います。
これを知らないとチャンスーがかからないという以上に、そもそも日常生活の動作で指や腕を傷めることにもなりかねないので。手で細かな作業、家事をする女性はこれまた注意が必要な箇所だと思います(実際、太極拳の練習より家事の時間の方が長い・・・私自身の経験から語っています)。 そう考えると、体をぎっくり腰や腱鞘炎、猫背、肩こり、内臓下垂その他もろもろから守るためのチャンスーなのかもしれません・・・
2021/8/19 <自分の動きを見て気づいたこと 癖のない体と心>
2021/8/18 <混元太極拳の套路の特色 技と内功の併用 体を整える>
混元太極拳は円や余分な動作が多くて覚え辛い・・・ 簡化や楊式だけでなく陳家溝の陳式を学んだことのある人でもそう言います。
が、動作が多いのには訳がある・・・
普通、「套路」と言うのは、”技”を繋げてできたもの。技を伝承するため、という目的がある。が、馮老師が編纂した混元太極拳は、技の羅列ではなく、その技を技足らしめるための身体の使い方、気の運用の仕方、いわゆる内功や纏糸功、そして放松までもその套路の中に組み込んでしまっている。
逆に言えば、技ではない部分、他にはない一見余分に見える動作は、太極拳の核心的なもので、技の直前には必ずと言ってよいほどそんな動きが隠れている。
そして、馮老師が来日した際、「24式を通して2回やれば身体は整う」ということを言っていたが、これは、「(2回やれば身体が整うように)24式を編纂しました」という意味だったのだと思う。毎日フルコースで練習する時間のない人も多い中、套路をやれば体が開き必要な運動がこなせる、そんな套路を作りたかったのかもしれない。内功も纏糸功も放松功もタントウ功も組み込まれた套路、それが混元太極拳なのだろう。
6月に一度、自分の生徒さんたちのために第1式から第6式までの解説動画を撮っていましたが、生徒さんたちのリクエストに応えて、今日やっとその続き、第7式から第10式までの動画を撮りました。
馮老師は24式を何度もバージョンアップさせているので、どのバージョンを使うかが問題になったりするのだけど、本質は同じ。説明をするにあたっては馮老師の最もシンプルなバージョン(おそらく入門バージョン https://youtu.be/NLIsASGVNYI)、馮老師の基本的なバージョン(https://youtu.be/HFLJXaPhpPc)、そして劉師父の師父、王長海老師の套路 (https://youtu.be/ApBjhpvCEtw)、そしてもちろん、劉師父の套路を参考にしました。
第7式から第10式は四隅勁がメインの動き、体の向き、顔の向き、足の向き、がとても大事になる・・・捻ることによる纏糸勁がいたるところに使われている。今回はそれが感じられるように動作の説明をしながら動画を撮りました。
一通り太極拳の形を学んだ人は内側の流れを知る必要があるし、また、初めて形を学ぶ人も内側の流れを多少知っていた方が学びやすいかも(いや、余計に混乱する?そこは人それぞれかも?)しれません。そして他の流派の太極拳を学んでいる人が混元太極拳を学べば、それまで学んできた自分の流派の太極拳の理解がかきっと深まると思います。
2021/8/14 <おじいちゃんの功夫>
今日はグループラインに生徒さんが面白い動画を載せてくれたのでその話について。(空手の話はひとまず置いておきます)
動画はこちらを参照→
https://twitter.com/selfpr0tect/status/1426158524581646340
さあ、このお爺さんはどんなトリックを使っているのか?
コメントを見ると、”テクニック”を使っていると書いている人は多いのだけど、その”テクニック”が何なのかを指摘している人はいないようだった。若者がうまくできない点について、もっと背筋を使えとか、指を使えとかいうコメントもあったりした。
私は一目見て、あら、これは太極拳の”功夫”そのものではないか、と思った。馮志強老師はよく、「一に功夫、二に胆力、三に招手(技)」と言っていたが、この動画のおじいさんが見せてくれているのは、『節節貫通させて周身一家にする』という太極拳の身体がどのくらいできているか、すなわち功夫そのものだと思うからだ。
太極拳の功夫の成果ともいえる『節節貫通による周身一家』のイメージは、例えば、東京を一つの身体とするなら、その中が山手線だの中央線だのその他地下鉄、バスなどで隅々まで隈なく繋がっていて、かつ、各々の路線を走る電車やバスがほとんど間隔ゼロで動き続けれいるような状態だ。
単純に例えるなら、左のような五行図のような状態。
全体が一つの体で、その構成部分がお互いに繋がりあっている。
もし木にスイッチを入れれば、とたんに火から土、金、水、全てに連動してしまう、それが時間差ゼロ、そんな関係だ。
太極拳の練習では12経絡と任脈・督脈を通すことが節節貫通による周身一家の目安になっている。
上の動画のおじいさんは上のような経絡がほぼ繋がっていて(疏通)、上の動画の動作からは特に陰(体の内側)の経絡、特に親指に関わる肺経、脾経、肝経の繋がりがよく見て取れる。若者は必死に”力”を使っているが、おじいさんは背筋など”筋肉”を使っている感覚はないはず。(筋肉を使うには力がいる。通った経絡に気を流して勁を通す時は力を使う感覚はない・・・少し豆腐を切る時の内側の感覚に似ているかと思う。)
まずおじいちゃんは自分の手、握り方、親指を見せてくれている。(上左端の画像)
持ち上げる前に、念入りに親指の方向をしっかり棒先まで合わせて(中央の画像)、それから一旦自分の方へ棒をひきつけながら棒の先端までを自分の親指として経を繋いでいる(脇や足の親指から股間がポイントになるはず)(右端の画像)。
ここまで準備をすればあとは左足に踏み込みながら経を通していくと下のように棒が上がっていく(簡単に書いているけれど、それができるにはそれなりの功夫が必要。功夫というのは、あるなし、ではなく、ない人はないにしても、ある人のなかでもその程度がピンキリだ。)
若い男性はおじいしゃんが教えてくれたような手の持ち方ができなくてうまくいかない。
経が繋がっていない。腕の筋肉の力で上げようとしている・・・
この二人の比較を見て、ああ、太極拳ってそもそも”巧”なものだった、と思い出した。ちょっと不思議。一生懸命やっていないみたいなのになんかすごい。マジック?そんなコメントが出てもおかしくないようなもの。
もし若い男性が無茶苦茶筋肉を鍛えていたら棒を持ち上げられたのかもしれない。が、その場合はそれを見てもそんなに不思議には思わないだろう。だって鍛えてるもんね、と言ってしまいそうだ。
この動画についてそんなことを思った後で、バカンス中の師父に同じ動画を見てもらってコメントをもらった。そうしたら、『可能、太可能了!』と返信がきた。どういう意味だろう?と電話をしたら、なんと、師父は「こんなことはあの時代(文化大革命期など)、肉体労働をしていたものなら半分の人ができるだろう。全く不思議じゃない。」と言うのだ。
「え? 太極拳や他の内家拳で節節貫通の練習をしていなくてもできるのですか?」と聞いたら、「できる。当時の農耕作業や土木作業、これらをこなしていたら、自然にそんな体の使い方が身につく。てこの原理だ。少ない力で大きな力を出す....そもそも太極拳自体が農作業の動作から来ている、忘れたのか?」と言われた。「そんな肉体労働をしたことのない若者がやってもできないのは当たり前。」とちょっと自慢げ。重い荷車を引いたりとか、重い金属の鋤などで耕したりとか、若い時はそんな事ばかりしていたという。馮老師だって労働者だった・・・最近の中国の太極拳の老師達に本物感がないのはただ武術しか練習してきていない人が多いからかなぁ。肉体労働者経験者が少ないからかもしれない・・・と、私の生徒さんの中に、以前現場で働いている男性がいたが、彼は最初から体の使い方が他の生徒さん達とは全く違ったなぁ、と思い出した。
そんな師父との会話から、節節貫通とか周身一家は別に太極拳だけに特有のものではなかった。熟練の肉体労働者はその中でそんな体の使い方を身につけていた。肉体労働をしたことのない私のような者は太極拳の中で学ぶしかない・・・そして生活に活かす。巧みに家事雑事仕事ができれば、太極拳を学んだ甲斐があったと言えるのかと思いました。
2021/8/12 <空手形 周身一家 肩甲骨で胴体と腕をつなぐ>
オリンピック空手形女子決勝、清水希容選手VSサンドラ サンチェスハイメ選手。清水選手は金メダルを期待されていたのだけどサンドラ選手に及ばなかった。
空手の形、これまで真面目に見たことがなかったのだけど、この試合を見て身体のつくり具合がサンドラ選手と清水選手ではかなり差があり、それがそのまま形の出来具合に表れていると思った。組手なら相手との駆け引きや技術が加味されるが、形は”功夫”の差、身体の開発度で勝負が決まってしまうようだ。
清水選手とサンドラ選手は昔からライバルだったようで、2018年の世界選手権でも決勝で争ってサンドラ選手が優勝していた。その時の動画があったので二人の形を比べてみた。https://youtu.be/32lkz2UfBY4
この大会では二人は同じ演目を演武しているので比較がしやすい。
実は、私が清水選手をオリンピックの決勝で見た際の第一印象は、意外にも丹田が弱い、ということだった。中丹田は鳩尾から臍下まで、中国語の”腰”にあたる位置。(日本語の腰と中国語の腰は場所が少しズレていることに注意。)ここにあまり力がなくて、骨盤=胯、主導で動いている感じだった。 だからキレが必要な場所で胴体がゆさゆさして、身体にいま一つキレがないなぁ〜、と思ってみていた。表情でキレをカバーしているような気がしないでもなかった。
が、それに比べ、サンドラ選手の体は頭の先から足までまるごと一つになっていて(周家一家)、キレがとてもいい。どう見ても、こっちが格上、と思った。(空手歴がそこそこ長い主人もサンドラの方がすごい、と一眼みて唸っていた)
空手の演武はものすごい速さで終わってしまうので、なぜサンドラ選手の方が体のキレがあってすごいのか分析はできなかったが、上の動画を見返していたら太極拳と通じるところが浮き彫りになってきた。
まず、上の静止画像での比較では核心部分はわかりにくいのだが、表面的な差として分かるのは、サンドラ選手の首から頭(頭部)はガシッと胴体に組み込まれているのだが、清水選手の首から上は胴体に差し込まれていない。胴体から頭部が出てしまっている(周身一家になっていない)。経が頭頂までつながっていないということ→ということは、手先まで繋がっていない可能性大・・・
そう思って最初の2枚の画像を比べると、思っていた通り、右手のジーの際の二人の肘の角度が違う。
サンドラ選手は足→→腰→肩甲骨→肘→手と繋がっているから、肘は少し墜落している(墜肘)。これなら体は中正。たとえ(空手ではあり得ないが)右手をとられても持って行かれない。
これに対し、清水選手の肘はまっすぐ。これだと簡単に右手をとられて引っ張られてしまう(太極拳なら)。肩甲骨が使えていない(肩甲骨、前鋸筋、脇、広背筋から腰、下半身への繋がりがない)。胴体と四肢が分断している(だから頭部も分断されている。サンドラ選手と比較すると分かるが、清水選手の頭はまっすぐではない=虚霊頂勁になっていない)。
と、こんな世界レベルでも、身体の内側で経を繋いでしまっている人は他の選手達を優に凌いでしまう。男子の金メダリスト、それよりも身体の開発度が上回る人と比べてしまうと、
vこの画像も二人の肩甲骨を見れば違いが明らかだ。
サンドラ選手の背中が弧を描いているのは肩甲骨が張り出している(肩甲骨から手:ここでは肘の撑 引っ張り合い)・・・ 推手で師父に散々注意されているところだからここはよく分かる。
ジーの時も背中はサンドラ選手のようになる(身体は五弓:胴体も弓状)。
これは同じポーズを違う角度から写したものだが、清水選手の右肘がキマっていない(肘のポンがなくて落ちてしまっている)。これも肩甲骨と胴体がしっかり結びついていないため。
サンドラ選手のように捻って中正を作るポーズだが、清水選手は捻った時に中正が多少崩れてしまっているようだ。
そして最後のペア画像。
サンドラ選手を見ると、肩甲骨が張り出すことでそのままドカンと突きになっているのが分かる。肩甲骨から拳までが水平、一直線。
それに比べると、清水選手の腕は”落ちている”。これはやはり肩甲骨から使えていないのが原因。このような突きは実際には重さがなくて威力が少ない・・・
と、2018年時点での二人の体の使い方の大きな違いの一つが”肩甲骨”。
肩甲骨を胴体と腕をつなげる重要なパーツ。脇、前鋸筋をしっかり使えるようにするのが重要だが、それにはチャンスーがとても有効・・・
と、さらに二人の演武を見ていたら、空手もチャンスーが非常に大事なのが見て取れました。その話はまた次回に。
2021/8/10 <腰から肩甲骨へ 抜背の徹底で腰がなくなる 身体が割れる>
オリンピックを見ていると身体の使い方でいろいろ気付くことがある。
卓球は私が学生時代にやり込んだスポーツで太極拳との関連がとても深いと感じているもの。中国選手の打ち方、身体の使い方は太極拳の身体の使い方と共通するところがあってとても興味深い。
今回、伊藤美誠選手が準決勝で対戦した孫穎莎選手、彼女の打ち方を見た時、目が釘付けになった。えっ?馬龍? 男子?と思ったのだが、いや、女子。ああ、師父が推手で私に要求していることはこれなんだ・・・とピンときた。
彼女の打ち方は、肩甲骨打法。台に張り付いて攻防をする女子には珍しい打法だ。
肩甲骨打法はその名の通り、肩甲骨がクルンと回ってそれがそのまま腕の回転になるような打ち方。肩甲骨が背中の上でクルンと回る、ということは、肩甲骨と背中の間に隙間が必要で、ドライブをかける選手が使う身体の使い方だ。伊藤美誠選手のように台に張り付いて当てて返す前陣速攻型の場合はそのような打ち方はしない。
孫穎莎選手の打ち方。旋風脚ならぬ旋風腕のように腕が回る。男子世界チャンピオンの馬龍の打ち方に似ている・・・
肩甲骨を腕と一体化させて打つ=肩を支点にして打つ、というのは私がこの一年師父に教わってきていることだが、これがなかなかできない。というのは、”腰”で打つ癖がついてしまっているからだ。
日本選手の打ち方は一般的に腰重視。文化自体が腰重視だ。しかし、私がこの一年で知ったことは、腰は要だがそれを基礎としてさらに洗練された打ち方、身体の使い方がある。それが肩甲骨打法、肩甲骨をめいいっぱい使う身体の使い方だ。
伊藤選手と孫穎莎選手の構え方を比べてみると腰重視と肩甲骨重視の違いがもう少し分かるかもしれない・・・
美誠ちゃん
腰に力を集中→身をギュッと真ん中に寄せた感じ
腰から背中、首の下(僧帽筋)に力が集中する→背中が丸め=『抜背』ができない→中股関節と肩関節が開きにくい=肩甲骨がフリーにならない
孫穎莎ちゃん
『抜背』ができている=背骨が柔らかい
→左右の肩甲骨、左右の股関節がはっきり分かれる=身体が”割れる”
→左右が別々に連動して動く
身体の可動域が美誠ちゃんより格上になる。
もはや”腰”がない形。
頭から股下(裆)までが抜けていて、画像の点線で山折り、谷折り、できるような身体・・・カエル、もしくは乳児のような身体。
卓球は戦略、技術、メンタルがとても大事だから使い勝手のよい身体を持っている人が必ずしも試合で勝つとは限らないが、とはいっても高性能な身体を持っていると有利だ。
私の練習の経験では、太極拳ではまず丹田や腰に力(気)を集める練習段階がある。美誠ちゃん風だ。しかし、それができたら、次第に手足(腕脚)に繋げ身体を開いていく。腰から股関節、股下(裆へ、、そして背中や肩甲骨へと上下に気が流れて身体を押し広げていくような段階がある。ざっくりいえば、24式や48式の一路で腹腰に集め、46式などの二路、炮锤で肩甲骨を開発する。
といっても、一路ででも肩甲骨を開発することは可能だろう・・・
が、上の二人の写真を見れば分かるとおり、肩甲骨や股関節をセパレートするには『抜背』が完璧にできる必要がある・・・頭頂(百会)から股下(会陰)まで貫通・・・アジの開きのような身体?
ここまでできると、足裏から得る地面の反発力ははんぱない。美誠ちゃんもそこそこ足裏が地面に貼り付いているが、孫穎莎ちゃんの足、足裏、足首を見てしまうとまだまだ開発可能だと思えてしまう。
←二人が歩いている場面
案の定、美誠ちゃんは猫背。私も卓球由来の猫背・・・
日本では卓球は少し猫背になるイメージがあるかも? が、師父に卓球の素振りをさせたり、実際に中国でおっちゃん達と卓球をした時に知ったのは、彼らと日本人の卓球のフォームのイメージは微妙に違うということ。猫背のイメージはないのではないかなぁ、中国では。
実際、上の画像で見て通り、孫穎莎選手は身体がまっすぐ頭まで立っている。膝裏も伸びて堂々と歩いている。日本人の女性でこんな風に歩く人はまずいない・・・歩き方で日本人か中国人かはわかってしまう。私たち日本人は大方猫背、猫背までいかなくても肩が前に入っている。
首がすっと立って背中が丸くならずに足まで抜けるような立ち方は理想的だ。
太極拳なら『抜背』の領域・・・『抜背』ができないと肩甲骨が自由に使えない。
・・・そんなことを二人の試合を見ていて気づいたのでした。
『円裆』も『抜背』の延長線上にありそうだ。ただ股を開けばよいというものではない。そもそも裆は背骨の下にある。ヨガでいうなら第一チャクラだ。
孫穎莎選手の身体を見て『抜背』の必要性を感じたのだけど、そういえば、バカンスに入る直前に師父から背中のあるツボ(膀胱経の隔関)を意識しろ、と言われてた。これも『抜背』のための一つの方法。それによって肩甲骨を引き離す・・・休み中の課題です。
2021/8/7
<ハムストリングスのストレッチ 足先を開くと捻りが入る 捻り圧腿で節節貫通を目指す>
ハムストリングスを使う、ストレッチする際に気をつけなければならないのは、ハムストリングスだけをストレッチしないこと。
ハムストリングスをストレッチする代表的な方法は圧腿。これで太ももの付け根を無理に伸ばして痛めてしまった経験があるのは私だけではないだろう・・・。
右のような姿勢から上体をそのまま前に倒していく・・・ありがちなストレッチだが注意が必要だ。
中国武術の圧腿は通常左のようにやる。(https://www.youtube.com/watch?v=q7O49YGbjIU)
足を乗せる台に向かって真正面に立ち、軸足のつま先も正面に向けてもう片方の足もまっすぐ上げる。
このようにした場合、ストレッチされるのはハムストリングスと脹脛、アキレス腱。
膝裏や腿裏がキツイ形だ。
しかし、節節貫通をモットーとする太極拳ならこのような圧腿はあまり理想的だとはいえない。
どうせやるなら、節節貫通、すなわち、筋肉を連動されて全身のストレッチの一環としてハムストリングスや膝裏のストレッチをしてしまうべきだ。
左の図を見て分かるように、ハムストリングスだけを引っ張るとその起点と終点に負荷が集中する。
一つ一つの筋肉はソーセージのようで、それらの筋肉は関節で次の筋肉へと動きが連動していく。この連動を使うなら、ハムストリングスや膝裏、アキレス腱をストレッチする際に、それに連なるお尻、仙骨、腰、背中、そして足の中(足の指)まで一緒に伸ばすべきだ。実際、ハムストリングスを使う時はハムストリングスだけを使うのではなくそれによって足指やお尻、腰、背中までも一緒に使うのだから、基本訓練の時もそのような使い方をしておくのはとても役に立つ。
では、どのように圧腿するのか? というと、以前紹介した劉師父の圧腿がその形だった。(https://youtu.be/lRBj077Ce9Q)師父は上のような説明をしていなかったが、結果としてそのようになっている。
動画の中の師父の圧腿をよく見てもらうとよいが、師父は軸足(左足)のつま先を正面に向けず、少し外に開いている。左足のつま先が外に向いているのに右足を正面に上げているから、本来ならお臍(胴体)は左斜め前を向いてしまう。そこをぐぐっと骨盤から捻っておヘソが右太ももに接するようにしている。
師父が、「腹を太ももにつけるように!」と注意していて、一番最後の写真のようなに顔を膝につけようするのは悪い例だ、と言っているのは、胴体(脊椎)の捻りが一番下から上に向かって連動していくようにするため。
「仙骨、お尻が正面に向かってまっすぐになるように」と言っているのも結局は捻れ、ということになる。木に向かって身体が斜めになった上体から右足を上げれば、そのままだと左のお尻が後ろ、右のお尻が前、とお尻のラインが斜めになる。これを裆から上に向かってググッと捻っていくとお尻の線が揃ってくる。これは弓歩で前に打ったり推したりする時の身体の使い方と同じだ。
私が手の指で示したのは、「靴の中の足の指は開いていなければならない」ということだが、このように捻りをかけるとアキレス腱から足の中の骨、指まで勁が通り、それまで萎れていた足指が息を吹き返して一本一本が独立する。
つまり、圧腿はチャンスーによる節節貫通の基本練習になる。”捻り”の連動の練習だ。
最初に軸足のつま先を開いておく。すると正面に片足を上げた時に自然に股間(裆)が広がる。股関節が回転する。すると仙骨から回旋が入って捻りが上方向(背骨から首、そして上げた足先に向かって)に連動していく(上げた足の指が開いてくる)。足指から首までが繋が繋がって勁(伸びようとする力)が感じられるようになったら完璧だ。これが身体が内在的に持っているチャンスー。
完璧にできなくても、軸足のつま先を真正面に向けた圧腿と、つま先を45度程度開いた圧腿、両者を試して比較してみると”伸び”の違いが分かるのではないかと思う。少しずつ師父のようにできるようになりたいもの。それには師父のように毎日欠かさず修練を続けることが必要・・・反省。
筋肉は両端を引っ張っても筋が伸びるだけ。筋肉を捻りながら伸ばせば筋肉同士が連動しつつ筋肉自体も細長く伸びるように感じる。
オリンピック種目の中にスポーツクライミングというのが登場していたが、さぞかし肩や腕の筋肉がものすごいのだろう・・・と男子体操選手の体型を思い浮かべていたら、クライミングの選手の体型は全く違っていた。筋肉が肥大化していなくて細長い。アキレス腱、脹脛がとてもきれい(これは主観)だった。(左の写真はhttps://www.sankei.com/article/20210805-SRJ6V7HANBBZLG3B4F67M5PYTM/?outputType=theme_tokyo2020より)
これはまさに『周身一家』の動きだなぁ、と思った。腕や脚の筋肉も必要だが、それは背骨の延長のようだ。手足が背骨化している、とも見えるし、背骨が手足化している、とも見える。胴体と四肢の境目がはっきりしない。
動物や赤ん坊のハイハイのように身体丸ごとで動くとどこかの筋肉だけが突出して肥大化しないのだと思った。
股関節を開くのだって股関節だけを開いているわけではない・・・身体全体で股関節を開いている。ハムストリングスだって身体全体で使っている・・・
彼らの指の力はものすごいらしいが、これも指だけを鍛えているわけではないだろう。周身一家で勁が指まで達すれば指は全身の力の現れになる。手指、足指の力を見れば全身の力が分かる、というのはそういうこと、と改めて確認しました。
2021/8/6
(話がまた逸れていきそうなのでここでちょっと整理。)
そもそも『力起于脚跟』(力は踵から)とはどういうことなのか? どうしてなのか? という問題意識からしばらくメモを書いていた。
まず、『力は踵から』というのは<地面からの反発力を得るための要領>、もしくは、<地面から反発力を得た状態>を表現したものだと推測、解釈した。
というのは、太極拳は筋肉の収縮するパワーではなく、節節貫通によって全身を通り抜ける力(勁)を用いるもの。全身を通り抜けるような力は身体の外、地面・足裏からやってくる・・・馬の蹴りやクラウンチングスタートの原理と同じだ。もしわざと地面を足裏で推さないように套路をやってみたら・・・全身の筋肉が収縮して力がこもった感じになる。足裏で地面を推すから全身が伸びやかに動く。(椅子に座って足をぶらぶらさせたまま腕相撲をするのと、立位で腕相撲をするのと、どちらがやりやすいかしら? 腕の筋肉量が半端ないひとならどちらでも同じだろうけど、節節貫通で力を使う人は立位の方が断然やりやすいはず。)
しかし、『力は踵から』といっても、地面からの反発力を得るためには、ただ踵で地面を推せばよい、というものではなかった。
地面の反発力を身体(胴体)にまで届けるには、その前提として、踵と股関節、もしくは、足関節(足首の関節)と股関節のダイレクトな連関が必要だった。足首・踵が踏ん張ったとたん股関節が起動するような関係が必要だ。
この股関節と足首・踵の関係はしゃがむとよく分かるが(https://youtu.be/sRQwZvt4VC4 参照)、それを徐々に弓歩やタントウ功の形でも分かるようにしていく(棒立ちに近くなればなるほど難しくなる)。
そして、股関節と足関節、の繋がりすぐに分からない場合は、ハムストリングスを使って地面を推すような練習をするとよいと思う。
というのは、股関節と足関節をダイレクトにつないで踵で地面を推すとハムストリングスが起動するようになっている。だから、それを逆にして、ハムストリングスを使うことによって股関節と足関節の連動が可能になるように近づけることができるからだ。(関節(=隙間)を意識するよりも筋肉を意識する方が容易)
ハムストリングスは左の図のようになっている。
一般的に、女性は太もも裏、膝裏がぶよぶよになりやすく、男性は腿裏が硬直して前屈が苦手、というケースが多い。いずれもハムストリングスが使えていない状態。腿裏がスッキリ伸びないと脊柱起立筋も伸びないから姿勢が悪くなる(体軸が保てない)。
ではどうしたらハムストリングスが使えてすっきりした脚になるのか?
まずは踵に体重を落とす。そして股関節を回転させる! 股関節が回転するとハムストリングスが使える。私たちは通常の歩行時、股関節を回転させていない。ただ脚を振り子のように前後に出している。股関節が十分つかえていない。(自分が歩いている時にハムストリングスが使えているか確認してみるとよい・・・https://youtu.be/ISMA4LgmVgA 『力は踵から』と股関節の回転 参照)。
股関節が回転→ハムストリングス起動
ここでもう一つ戻ると、そもそも股関節が回転するためには、股間(裆)を広げる必要がある!『円裆』の登場だ。
太極拳の要領はこのようにリンクしている・・・
つまり、円裆がないと股関節がちゃんと回転しない、股関節の回転が不十分だと太ももで使えない部位が出てくる→使えない筋肉、通らない経絡が出てくる(師父のように真に太極拳を修める人たち筋肉ではなく経絡で説明をする)→身体が歪→節節貫通にならない
12経絡を全て通せるようになるのが目標であり理想・・・
『円裆』で股間を広げる(骨盤底筋をストレッチする)ことによって股関節が回転しやすくなる。弓歩で踵を支点につま先を90度に開いていくのもそれによって骨盤底筋がストレッチされ股関節が回転、ハムストリングスが捻り伸ばされ足裏で地面を推す力が増えるからだ。
左の画像はアキレス腱をストレッチする体操として紹介されているもの。
つまり、これはハムストリングスを使わない(ストレッチしない)形だ。
股間が広がっていなくて股関節が使われていない形。
画像の右上に貼ったのは昨日使った簡化式の老師の弓歩。こう見ると簡化式はハムストリングスではなくアキレス腱を伸ばしているようだ・・・
一方、ハムストリングスのストレッチになると、ずいぶん股間を広げなければならない(いわゆる開脚に近くなる)。
開脚すればするほど裆は広がる(骨盤底筋はストレッチされる)。股関節は回転しやすくなる。
逆に閉脚(閉歩)にすればするほど裆は狭く会陰が引き上げ辛くなる(骨盤底筋が緩む)。股関節が回転し辛くなる。
開脚を積極的にやらないと股関節が使えずハムストリングスが起動しない、前腿に負担がかかり膝に負担がかかる、そんな連鎖反応がある。歳をとっても可能なかぎり開脚を諦めないようにした方が良いのではないかと思う・・・師父を見ていると毎日私よりずっと入念に開脚の練習をしています。次は開脚の仕方、ポイントは”捻り”による全身の連動かなぁ?<続く>
2021/8/4 <後脚は後ろ向きに蹴るように作られている>
スクワットには前腿を鍛えるものとハムストリングスを鍛えるものがあったが、太極拳の姿勢は必ずハムストリングスを使う。というよりも、ハムストリングスを使うのは太極拳のためではなく、正しい姿勢を作るためには不可欠なものだ。腿の後ろ、膝の後ろがたるんでしまったり、固まってしまったりすると、腰が使えず背中も固まってしまう。(前腿が固まる=ハムストリングスが使えない、と腰痛や膝痛を引き起こす という記事)
馬の走り方を見るとよく分かるが、後ろ足は後ろ向きに蹴る。犬だって同じだ。
私たち人間も後ろ足(脚)は本来後ろに蹴るようにできているのではないかと思う。
そして後ろに蹴ってみると分かるのがハムストリングスの存在。脚を前方向にばかり動かしていると分かり辛いハムストリングス。しかし脚を後ろに上げるとハムストリングスが収縮して前腿がストレッチされる。お尻から腿全体がキュッとひきしまって長くなり格好良くなる感じだ。
←簡単なイメージ図
後ろ足の足首を背屈させて踵で蹴ろうとすると(後方への蹬脚)、ハムストリングスから膝裏、ふくらはぎ、アキレス腱、そして踵、と繋がるラインが出てくる。
このように腹から踵までまっすぐ蹴った時に得られるのが地面からの反発力、すなわち『踵から力が出る』という感覚だろう。
ただ”蹴る”といっても足首から下で引っ掻いたように蹴るのではなく、腹から足裏まで直線的につないでズドンと蹴る→感覚的には”蹴る”よりも”推す”に近い。
この後ろ足の伸び、地面を推して突っ張る力が前方への推進力になる。
歩行時も同じ。前に着地した足が地面を推して突っ張ったまま後方へ移動すると、反対の足は自然に前に振り出るようになっている。)
←陸上の短距離スタート時は後ろ足の押す力が決定的に重要
上のようなことを前提として、太極拳の重心移動を確認してみた。
馮老師がピタピタのジャージズボンを履いている動画があったので、ちょっとウキウキして下半身を見てみました・・・
ハムストリングスが張って、後ろ脚全体が地面を突っ張って推すことで(赤矢印)地面の反発力を得る(黄矢印)構造になっている。二つの矢印を合わせれば突っ張り棒、張力、になる。
上の陸上のクラウンチングスタートの原理と同じだ。
(詳しく言えば、『陰昇陽降』。陽の経絡は下がる、陰の経絡は上がる。
ハムストリングスを通る膀胱経、そして胆経は上から下へと下がる経。これを通すことで踵で地面を推すことが可能になる。
推せれば自然に陰(脚の内側の経絡)は上がる。)
私の生徒さんの中には簡化24式経験者の人たちも少なくないが、私が見ていて決定的に違うのが下半身(後ろ足)の伸び。
←同じ老師の画像(https://www.youtube.com/watch?v=rKilyW_awUo&t=68s)
簡化式ではお手本的な形。
後脚が曲がっていて全く床を推せていない(脹脛だけで推している?)。
スタートダッシュが全くできない後ろ足。
私が生徒さん達によく冗談で言うが、このような脚の草食動物は肉食動物に狙われた時に逃げ遅れて最初に食べられてしまう・・・足が無駄に太くて瞬発力がない、そんな脚だ。
簡化式は国民の健康増進のため誰でも楽しめるようにアレンジされた形。高齢者でもできるように歩幅も狭く、腰を落とさずに高い姿勢でできる。背骨、腰の捻りも必要ない(チャンスー勁はない)。
が、逆説的に、このような運動だけをやりこむと下半身が重くなり膝に負担をかける結果になりかねない。
馮老師と比べるとその”張り”=身体全体のポンの違いがよく分かると思う。
左の中国の簡化の老師の身体は落ちて弛んでしまっている。一見足裏が地面に貼り付いているように見えるかもしれないが、その足裏は沼地に沈み込んでいるようなものなので地面の反発力は得られない(このような脚では走れない)。馮老師の足は地面を蹴って跳べる足(反発力が得られる足)。
(『上虚下実』というのは身体を落としてしまうことではなく、”気”を足の方へと落とすこと。)
左は簡化式の集団練習の光景だが、やはり後脚が捻れていて(チャンスーという意味えはなく、経が分断されていると言う意味)とても不自然な感じ。どうしてこんな膝に負担のかかるような形を推奨するのだろう? 前腿と脹脛が太くなって脚も短くなってしまう・・・(上の馮老師を見て分かるのは、老師の脚は決してバカ太くない。画像左の女性の脚の方が太い。)
ただ、簡化には簡化のルールがある。だからある程度やって疑問が湧いてきたら簡化は入門と割り切って本当の太極拳に転向すべきだと思う。(師父などは簡化式や演舞のアクロバティック太極拳はもはや太極拳とは別物としてノーコメントです。)
ともあれ、冒頭最初のイメージ図のような後ろ踵蹴り(蹬脚)が重心移動の基本。
馮老師の後脚はそのようになっている。
普段の歩行時にも後脚の突っ張りができればよいけれど・・・歩行で練習するのはとても難しい。それなら太極拳の弓歩の重心移動で練習した方が簡単・・・まずは歩幅を広くして、それから次第に歩幅を狭くしていく・・・狭くすればするほど、つま先を前方に向ければ向けるほど、ハムストリングスから足裏踵まで繋がる経(蹬脚の感覚)を得るのが難しくなるのが分かるはず。歩行時にそれができたらもう達人の域かも。
実はハムストリングスの使い勝手は股間(裆)と大きな関係がある。
股間がたるむ(ゆるい)とハムストリングスは使えない(上の馮老師の画像の素晴らしさは股間の切れ上がりがよく分かること!) また話は股間に戻りそうです・・・<続く>
2021/8/2 <3つのスクワットからタントウ功へ ハムストリングスと腹を意識的に使う>
昨日書いたのは、同じスクワットでもやり方を変えれば鍛えられる部位が変わる、という話だった。検索すれば、こうすれば前腿、こうすればハムストリングス、こうすれば腹筋、とやり方は出てくる。
が、私がある整体師さんの、「スクワットは腿じゃなくて腹筋なんです。」という言葉を聞いた時に頭の中が一瞬パッと開いて閃いたのは、そんなスクワットの方法論はともかく、私たちは「腿を鍛えよう」と思ってスクワットをすればそんな風なスクワットができるし、「腹筋を鍛えよう」と思ってスクワットをすれば(完璧でなくとも)そうなるようなスクワットの形を模索してすることができるのではないか、ということだった。つまり、意識によって身体の使い方が変えられる、ということ。
意識を向けることでそこが使えるようになるならそれに越したことはない。
①「前腿を鍛えるようにタントウ功をしてください。」と言ったら、ほとんどの人は上手にそのような中腰姿勢で立てるのではないだろうか? 前腿をカチカチにして膝に乗っていけばいい。
②しかし「ハムストリングスを使うようにタントウ功をしてください。」と要求したら、どうだろう?お尻を突き出すのか?(とやってみる)。でもこんなにお尻を突き出したらタントウ功の形としては変だ(と思うだろう)。ちなみにこの時は『泛臀』。
③では「腹を使ってタントウ功をしてください。」と言ったらどうだろう? おそらく息を”んっ”と堪えたようにするだろう。息が止まる。お尻は突き出さないだろう。お尻を突き出すとお腹に力が入らない。お尻は前方に収めて上体を垂直に近くした方が腹筋に力が入りやすい・・・言われなくてもそうするだろう・・・自然に『斂臀』になっているはず。
つまり、昨日紹介したようなサイトを見なくても、その特定の部位を使って中腰姿勢をとろうとするとそれなりに形は作れると思うのだ。(上の①②③だと②がやり辛いかもしれないが。)
これを出発点に太極拳の基礎づくりとしてのタントウ功を再考することができるのではないかと思った。
①②③、それぞれの中腰スクワットをやってみてその感覚を覚えておく。
まず、タントウ功、太極拳で避けなければならないのが①。前腿、膝にのる中腰。これは最もやりやすい形だが、これは避けなければならない身体の使い方だと頭で理解するべきだ。太極拳の姿勢に様々な規則があるのは、この①を回避するためだといっても過言ではないだろう。「膝がつま先より前に出ない」というのはとても表面的な話で、根本的には『松胯』をすると前腿を固められなくなりハムストリングスに乗るようになる(②になる)。しかし『松胯』(股関節の緩み)をするにはその前に『松腰』(腰椎の緩み)が必要になる。そして『松腰』のためには・・・・と循環が始まってしまうのだ。
ともあれ、①のように前腿を固めるのは回避すべきだ、と知る。代わりにハムストリングスを使うのだ(②)と知る。太ももの後ろ側、裏側を使いたい、と意識する。
←高岡英夫氏による体軸のイメージ図 (『センター 体軸 正中線』より)
下半身はハムストリングスと膝裏を通る。
ここが通せないと上半身の軸は通せない。土台を作るのが大事。
少し前に書いた「内踵と股関節を合わせる、繋ぐ」ということは、体軸を通すということになる。内踵で股関節が操作できるようにすれば、ハムストリングス、膝裏も使えるようになる。内腿も使えるようになる。すなわち、腿がぐるりと一周使えるようになる。
そして③の腹。
上の①のように膝を曲げて前腿を固める時、そして②のようにお尻を突き出してハムストリングスを使おうとする時、この時の私たちのお腹はゆるゆるだ。腹圧が全く高まっていない。なぜなら、呼吸、息が全く関与していないから。
腹筋を鍛える、とか。腹圧をあげる、という時に真っ先に行うのは息を吐くこと。息を吐いてお腹に力を入れる。腹は息がないと強くならない。ただ腹を曲げたり伸ばしたりしても効果がない。(息が必要なのは腹に限らない・・・脚、足、手、頭・・・全身に必要なのだが、腹は特にそれが顕著。)
(実際には腹に息は入らないけれども)腹に息を入れようとする意識が大事。(どうやって腹に息をいれるのか?と聞く必要はないと思う。)
最終的には①をやめて、②と③を同時にクリアすればタントウ功、上の高岡氏のいう体軸を通すような立ち方になる。②と③を同時にクリアさせるのにそれなりの時間と試行錯誤が必要になる。丹田が形成されてくるのはこの段階だ。 <続く>
2021/8/1 <スクワットで鍛えられるのは前腿? ハムストリング?or 腹?>
この一年は整体や解剖学にとても興味が出た一年だった。
今日もある整体師さんの講座を聞いていたのだが、その中で「皆さん、スクワットは腿を鍛えると思っているでしょう?しかしスクワットは実は腹筋を鍛えられるんです。」と、さらっと言ったのが自分の中で大ヒットした。
そもそもスクワットとは・・・
定義を調べたら、<上半身を立てたまま行う膝の屈伸運動> というのが一般的なようだ。
”膝の屈伸運動” そう思ってスクワットをすれば、前腿が鍛え得られて太い腿になりそうだけど?
いや、<上半身を丸めずに真っ直ぐにしたまま膝を曲げる>という動作も、やり方次第。
前腿を鍛えるのか。ハムストリングスを鍛えるのか。
その2種類が上の動画で簡単に説明されている。
違いは上半身の傾き。
垂直に近いと前腿が太短くなる。
上半身が前傾(背中を丸めないことに注意)→ハムストリングス、股関節を使う。
ただし、どちらも太極拳で使うものではない。
(前者は前腿が収縮して他の筋肉との連動が断絶、後者はお尻が出過ぎて腰の力が使えない。)
ここで、スクワットを<膝を屈伸させる>という意識ではなく、<上半身を立てて腹筋を鍛える>という意識で行うと、上の2つと似て非なるスクワットになる。
太極拳をフルスクワットでやる低架子の人はごく一部。多くは中腰、ハーフ スクワット。
https://bokete.jp/boke/10010686
やはりこれも気をつけるのは腹筋。
腹筋を鍛えようと思って腰を落としてみるとどうだろう?膝を曲げる意識はほとんどないのでは?
(ここで少しややこしい点は・・・
直立姿勢から中腰姿勢になるのは腹圧を高めたいから。腹圧をかけるからコア腹筋が鍛えられる。
しかし太極拳では最初から「放松」が強調されて腹の力も抜くように指導される。腹を放松させるのも、それによって丹田を中心に次第に腹圧が上がっていくのを狙っているのだが、丹田の形成がうまくできないまま腹の力を抜いてゆるいお腹でずっと太極拳の練習をし続けてしまうケースがあるかもしれない。すると腹で身体を支える意識がないから一番上の動画で紹介されたような前腿に乗ってしまうスクワットになってしまう危険性が高くなる。
腹筋を使うつもりで太極拳の姿勢をとってみて腹で身体を支える感覚を覚えてから、徐々に腹のしっかり感が消滅しないように表層部から腹の筋肉の力を抜いていく、というような練習方法も考えられるかと思う。)
そのような”中腰で腹筋を使う”意識は日常生活でも必要かと。
家事は中腰のオンパレード。
例えば左のなおみコさんのブログにあるような家事の姿勢。http://naomico-today.seesaa.net/article/446693705.html
膝を伸ばしきって前かがみになると腰や首に負担がかかる。だから中腰になろう・・・というが、それは膝を曲げることではなく、腹筋、腹圧を高めるということ。
そして介護の姿勢。前かがみ中腰の姿勢が多く腰痛に悩まされる人が多いという・・・
介護の姿勢に古武術を応用・・・
https://www.asahi.com/articles/ASJDG551YJDGUEHF015.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
『常に股関節から体を曲げるようにして骨盤と腰骨をまっすぐに保つと、腰だけに負担がかからない状態になります』
とあるが、このような姿勢にすると<腹圧が高まるので>”腰だけに負担がかからない状態”になるのだと思う。
だから太極拳では”丹田”をとても大事にする。
丹田、分からなければ最初は腹筋でもよい。膝を曲げる時(例えば椅子に座る時)は、膝を曲げようとした時にすかさず腹に力を入れること、腹がゆるゆるのまま膝を曲げない、日常生活でそんな訓練をするのはとても役立つと思ったのでした。 気がつくと案外抜けてることがある・・・日常的な意識の問題。(ん? 椅子に座ってメモ書いている間も腹圧抜いちゃいけなかった・・・)
そう、起式でポンする前にやはり腹圧、腹筋。丹田はまず”腹”への意識から。