2022年3月


2022/3/31<蹲墙功から学ぶこと> 

 

 「体を落とさずに気を下ろす」というのは「常に丹田を保って動く」ということに他ならない。が、この”丹田”は大きくもなり小さくもなる。丹田を石のような塊だと思ってしまうとどうしようもなくなる。重心を落とす時はそれに伴い丹田は中丹田から下丹田まで包括するように大きくなる。丹田が膨張したり縮小したりするに伴って背骨の運動が起こる。太極拳が四肢運動ではなく背骨の運動だと言われるのは、丹田中心で動くことの裏返しだ。意識は常に丹田(腹側の空間)にある。背骨を動かそうとすると背骨はロックがかかって思うように動かなくなる。

 

  背骨や腰、股関節の可動域を作る練習として蹲墙功というのがある。以前このブログでも何度か紹介したことがあったが先々週の「古武術から学ぶ体の使い方」の番組でもそれが「壁対面腰割り」として紹介されていた。

  実は、これは丹田を失わずにしゃがんでいく練習。言い方を変えれば、「体を落とさずに気を落としていく」=「気を落とさないと体が落とせない」練習だ。

https://www.nhk.jp/p/syumidoki/ts/5N8N91PYV7/episode/te/K6NXX996ZP/

 

講師の林先生は意外にも苦しそうにやっていましたが・・・

何故だろう?と改めて画像をみたら、息を止めている?息を止めると丹田の伸縮ができなくなって背骨の可動域が減少する。骨盤を水平にキープしたまま降りていく意識だったのだろうか? 下の中国の男子の動きと比べると背骨が硬い感じは否めない・・・日本の武道と中国武術の大きな差は背骨(腰)の使い方(ひょっとしたら息の使い方?)にあると思う。

 中国では両足を閉じてやったり、開いてやったり、手も上げたり、後ろで組んだり、いろんな方法でやられている。中国武術は日本の武道よりも背骨をしならせて使うからか見た目楽チンにやっている動画も多い。息は止めていない。

←それにこの子は若い!

 

 久しぶりに私もこの練習をやろうと思いました・・・

 

 

 ここからが本題。

この蹲墙功の中に「斂臀」と「氾臀」が含まれている。

 巷に普及した太極拳では「斂臀」(仙骨を内側に入れる、骨盤の後傾の感じ)の要領だけが教えられているようだが、本当は、その反対の「氾臀」(出っ尻の感じ)と対になって初めて「骨盤が立つ」(仙骨が立つ)状態が生まれる。この時、丹田がキュッとしっかり安定する。

 つまり丹田は伸縮するが、それがアメーバーのように伸縮するのではなく、しっかりと外側から圧のかかった窮屈な中で伸縮することによって実体的なエネルギーとして感じられるようになる。この時仙骨は上下に引き伸ばされている。このような状態で動くと「気を練る」ことができる。

 「古武術に学ぶ体の使い方」では、「体を練る」ということを「普通に体を動かすだけでなく、そこにあえて動きづらい制限を加えることで、それまで使われていなかった様々な部位が目覚めていき、体全体の連動性がより高まります。古武術ではそれを『練る』と表現します」 と説明していた。 太極拳では「気を練る」と言って「体を練る」とは言わないが、どこかに拘束がある窮屈な中での運動を「練る」と表現している点では共通している。体を練る、というのは外側の話。内側では気を練っている。

 

 ひょっとしたら、上の壁面に向かった昇降運動でも、古武術の林先生は「体を練る」意識で行なっていて、中国の若い男性は「気を練る」意識でやっているのかもしれない。

 

 仙骨を立てるには「斂臀」と「氾臀」をある意味同時に行う必要があるが、それによって中丹田と下丹田が一体化する。それについてはまた後で書きます。今日はここまで。

 

 

 

2022/3/27 <体を落とさずに気を下ろす>

 

  太極拳で難しいのは「体を落とさずに気を沈める」こと。

 重心を下げた時に体を落としてしまうと丹田が失われ体の伸びがなくなる。そうすると丹田による発力ができなくなり筋肉や骨に頼った打ち方になる。太極拳の特徴が失われる。

 かといって、体を落とすのをおそれて気を下丹田まで沈ませられないケースも多い。(下丹田は腿、足など下半身を操る。)その場合は足が地の気を得られない(地からの反発力を得られない)。やはり太極拳の打ち方はできなくなる。

 

 体を落とすと頂勁も失われる。頂勁とは頭頂がピンと天を指しているような感じだが、これは頭頂と足裏の引っ張り合いによって初めて可能になる。ただ首を立てて頭頂を天に向けても頂勁にはならない(それではただ首が固くなるだけ)。頭頂に勁が達する(=頂勁)にはまず頭を落とさずに足まで気を通すことができることが必要になる。

 

 とは言っても、やはり「体を落とさずに気を沈める」というのはわかりにくいようだ。

それができれば太極拳の核心への入り口は掴んだようなもの。逆にいえば、それができないと太極拳の核心は得られない。

 

 最近話題にした、骨盤(仙骨)を立てる、とか、足裏三点で立つ、とか、二の腕(肩甲骨)を使う、といったことは全てこの、「体を落とさずに気を沈める』=気沈丹田 につながってくる。

 タントウ功をやり込んで気沈丹田の要領を得られるようになれば、「骨盤を立てる」とか「足裏三点で立つ」とか「二の腕(肩甲骨)を使う」といったことがいつの間にかある程度はできるようになっているだろう。それを踏まえて太極棒で内功を練習すると、それらがさらにはっきりする可能性がある。最近、太極棒を生徒さんたちに教えたりしながら私自身も内側の感覚がさらにはっきりしてきている感覚があります・・・

 

  何人かの老師の太極尺の動画をGIF画像に変えてみました。定番の順回転の周天です。

  

  <比較>

 最初の二枚(馮老師、陳項老師)がお手本。二人の頭頂は体が沈んでも上方への力を残している(頂勁)。これは二人の足が床に貼り付き、常に骨盤が立っている=伸びがある、からこそできる技。(注意:骨盤が立つというのは静態ではなく動態。伸びが維持されているという動態)

 

 下段の3枚の写真のうち、男性二人は体が沈むとともに頭が落ちていってるのが分かる。(上の二人の老師と比較すると分かりやすい)。それは「体が落ちている」という状態。実は、頭が落ちた時点で丹田が抜けてしまっている。上側の男性は中丹田から下丹田にはいったところで。下側の男性は中丹田自体が抜けている。

 そして二人の足元を見るとどちらも足裏三点で立っていない。上側の男性は下丹田に入る頃につま先に乗ってしまっている→骨盤が立たない=下丹田が抜ける原因。 下側の男性はつま先が上がってしまっている→気が抜けてしまって中丹田も下丹田も作れない。

 

 これに対し、女性の動きを見ると、体は落ちていないが、そもそも松胯や円裆になっていない→下半身が緊張して気が足まで落ちない。

 

 上段二人のお手本の老師達と下段三人を比べると、上段の老師達の体が”杭”のようになっているのが分かると思う。これが站桩功(タントウ功)の”桩”の状態だ。タントウ功は死桩功、套路は活桩功と呼ばれるが、太極拳の身体作りはこの”桩”の身体を作ることにある。

 ”桩”の身体は天と地をつなぐ。天人合一とか天地人、というのはこのような”桩”の身体になった人間を前提としている。「体を落とさずに気を落とす」というのは「天を忘れずに地大地に根を下ろしていく」ということなのかもしれない・・・


2022/3/24 <足裏三点で立つ 三点の位置 三点立ちと扣>

 

  今日のオンラインの内功グループレッスンは太極棒がメインだったが、それ以外もいろいろ盛り沢山。

 その中の一つについてのメモ。

 

 昨日のNHK『古武術に学ぶ体の使い方』では、足裏三点で立って片足立ちをする、というエクササイズが紹介されていたが、これは太極拳の重心移動の練習に応用できる、ということを教えた。

 

← これがそのエクササイズ。

軸足のつま先を上げたままもう一方の足を上げていく。

つま先を上げたままにすることによって強制的に足裏の3点で体を支えるようにさせる。体幹を使って片足立ちができるようになる。

 


 ←足裏三点で立つためにつま先を上げている。

 

 太極拳の練習の時もこのようにつま先をぐっと上げたまま動くとハムストリングスや内腿、体幹を使う感覚が得られる。丹田も作らざるを得なくなる。

 

 目から鱗なのは、重心移動。

つま先を上げたまま重心移動をすると”膝がつま先より前に出る”などということはあり得ないのが分かる。出したくても出せない。「膝はつま先より前に出てはいけない」と教えられて、膝がつま先より前に出ないように膝でブレーキをかけているようにしている人が多くいるようだが、そんなことをしていたらいずれは膝を壊すだろう。

 「膝がつま先より前に出ない」のは、足裏三点で立っていれば(踵に乗って足を扣にする:吸盤のようなお椀型にする)、重心移動する時に内腿が使われて両足が広がるとその分股が広がる(裆が円裆になる)。股が広がると膝は永遠につま先より前(外)に出ることはない(膝は問題にならなくなる)。

 ←左の画像は、つま先(中足骨より先にある指)に体重が乗っている様子。足指にぎゅっと力が入っている。

 これで片足になると、太もも前側や脹脛に力がかかって固くなる。体幹が使えない。

 これで重心移動をすると内腿が伸びない(股が伸びない)のですぐに膝に力がかかって膝がつま先より前に出そうになる。

 

  今日のレッスンでは、つま先を上げて前後、左右の重心移動をしてもらい、体幹、股を使った正しい重心移動の感覚を得てもらった。(これは太極拳を興じるにあたってとても大事なことなので、近いうちに動画に撮ります。)

 

  レッスン後、生徒さんの一人から、足裏三点で立つことが”扣“になるのか? という質問を受けた。そう、まさに、足裏三点立ちの延長線上に”扣“がある。

  が、その生徒さんは、指を上げた足裏三点立ちからそっと指を床に降ろしても、指がまっすぐ伸びるだけで足裏がドーム型の”扣“にはならないようだ。

  実は、足指を床から少し上げたくらいでは理想的な足裏三点立ちにはならない・・・

 左の二枚の足裏三点の画像をよく見ると、三角形の大きさが違うのに気づくだろうか?


上の二枚の画像の左側(大きな三角形の方)は、3点を骨のぐりぐりの上にとっている。が、実際には、このぐりぐりの上には立てない。もし最初の指を上げて片足をあげるエクササイズで、母趾球と呼ばれる関節の骨の出っ張ったところに体重を乗せたとしたら体はゆらゆらして安定しないだろう。

 

上の古武術の先生(林先生)が指先を上げている画像を見ると、指がかなり持ち上がっている。母趾球まで持ち上げているようなイメージだ。この時足裏の3点はそれぞれの骨の内側にある(右の緑色の三角形)。

ここを使えれば、三角形の面がストレッチされてその部分が床に貼りつくようになる。片足になっても安定する。

 

この緑の三角形のストレッチ感を維持したまま上げていた指を床に下ろすと、摩訶不思議、足指が全て床に付いたと同時に足裏の中央がググッと膨らんでくる。“扣”が出現するのだ。

 

  これを文章で説明してもよく分からないかと思うし、足を見せても分かり辛いかなぁ〜? と、手と足は同じ構造・・・手でそれを実演してみました。ちょっと面白い実験。

 

最初は、骨のぐりぐりの上を繋いだ三角形を描いた。

そしてこの三角形を張り出して床に付けてみる。

それから、浮いた指を床に付けると・・・

 

ただ指が伸びたまま床に付いた。それだけ。何も起こらない。

 

これに対し、骨のぐりぐりの内側に三角形を描いて同じ実験をすると・・・下の動画へ↓

 

上がっていた指を置いた後にむくむくと手のひらの中央が浮き上がってきた。手の甲側が盛り上がるのも見えるのでは。これが扣“の状態。指先から掌根までが一体となった感じだ。リューをそんな手でやれば相手は抵抗できなくなる。手のひらの圧が一定で引っ張られているのに引っ張られてるというセンサーが発動しないからだ。足がそうなれば地面と足が一体化する。地の気が常に得られる(反発力が常に得られる。)

 

 問題は、足の骨の可動域。指を上の古武術の先生と同じくらい反り上げられるか?

 ”扣“を実感するには足の骨の開発が不可欠だ→普段から足裏に気を落として足の骨をバラバラに使えるようにする必要あり。

 

2022/3/21 <では「骨盤を立てる」には?>

 

  アスレティックポジションとタントウ功の比較を通して気づいたことは、共に目指しているのは「骨盤を立てる」という状態。

 

  骨盤が前傾でもなく後傾でもない時、身体は最も良いパフォーマンスをする。体幹は安定し股関節も最大限に機能する。

  では、どうしたら、その「骨盤を立てる」状態になるのか?

 

  そう考えてみると、おそらく、タントウ功で気がしっかり丹田の奥に沈んで下半身と胴体が一つになった時、その時に「骨盤は立って」いるに違いない。「骨盤を立てよう」という意識はないものの、気が腹に充満すると、腰や仙骨が一体になって上下に伸びる感じが出てくる。

 

 実際、「骨盤を立てる」と、腹がしっかりする、とか体幹が安定すると言われている。

 偶然にも、今日の専心良治さん(バレエ整体)のメルマガは、骨盤を立てるコツについてのものだったが、その中で、「いくら骨盤を前後に傾けても骨盤が立つことはない」と書かれていた。

骨盤が前傾しすぎているから後ろに傾けてみたり、その反対にしてみたりして、「骨盤が立つ」状態を探しても、「骨盤が立つ」状態は見つけられない。

 

 その理由は、骨盤を前後に傾けても動くのは”腰”だから。 ”骨盤”は動かない、ということだ。

 

 「骨盤を立てる」には、骨盤の傾きを変えるのではなく、「骨盤を支える筋肉」や「骨盤の中を通る筋肉」をいい位置に持ってこなければならない、と書かれていた・・・確かに、その通りだと納得。私自身の感覚では、丹田と密接な関係、裏表的な関係にあると思う。

 

 専心良治さんが「骨盤を立てる」ために最も大事なことは、体幹の強化(インナーマッスルやコアマッスルの強化)だ、というのは丹田をしっかり作る、ということに他ならない。

 タントウ功は自らの息を使ったスロー筋トレとも言えるから、これをしっかりすることでインナーマッスルが鍛えられる(鍛えられるようにタントウ功をすべし)。息が骨盤の中に入っていくようになれば内側から骨盤を伸ばして立てていくような感覚も得られるようになる。

 

 もちろん、それには貯金のように毎日少しずつ気を蓄積させていく必要がある。体幹がゆらゆらしているようでは骨盤は立たない。

 が、それでも、一体「骨盤が立つ」という感覚はどんなものなのか? とその感覚を少しでも掴みたかったら座って行う方法があるらしい。実際、先にその感覚をつかんでおくとタントウ功にも生かすことができる。

 「簡単に骨盤を立てる方法」としてhttps://balletdancersenshin.net/ballet-kotubann-tateru/ に書かれているので試してみるとよいと思います。

  座って、仙骨の先と坐骨を合わせる、という簡単なもの。やってみると、腹にグググっと気が入ってお尻や腰が伸びます。骨盤底筋も使われてる感覚あり(会陰が引き上がります)。足裏も開いて地面に貼りつく。

  椅子に座っている時にできる練功かと思いました。

  

 立位になると骨盤底筋の感覚が薄くなるので「骨盤を立てる」感覚も掴み辛くなるけれど、少しずつやっていくしかないかなぁ。

 下のようなイチローの姿を見ると、「骨盤が立った人間」の立ち姿のイメージが得られると思います。(骨盤立たないと本当の「頂勁」もできない・・・)

2022/3/20 <アスレティックポジションVSタントウ功 その2>

 

  前回アップした動画は、アスレテッィクポジション(所謂、”構え”)とタントウ功を比較する目的で撮ったもの。しかし、撮っているうちに、その比較は別の形の比較に変わっていった。

 

 まず、athletic positionはいつでも動き出すことのできる姿勢だ。だから別名、ready position(用意の姿勢)とも言われる。

 よ〜い!と号令がかかった時、足は直ぐに地面を踏んで蹴り出せるように準備されている。この瞬発力に不可欠なのが<大臀筋とハムストリングス>だ。

 athletic positionでは<大臀筋とハムストリングス>を起動させるような姿勢、ということができる。(右のような姿勢:脚は馬の後ろ足のように動き出す)

 

  

 これに対し、タントウ功は丹田に気を溜めることを目的にする。(気を十分に溜めてから行気させる)

 

 athletic positionは前傾姿勢になるのに対し、タントウ功はそれほど前傾にならない。できるだけ頭はまっすぐに立てる。

 

つまり、

 

athletic positionは お尻とハムストリングスの筋肉重視

タントウ功は丹田重視

 

何を目的とするかで立ち方が変わる。

すなわち、大臀筋とハムストリングスを重視すれば、お尻を突き出したような姿勢(四つ足姿勢に近くなる)丹田を重視するなら、仙骨を入れるような姿勢(直立に近くなる)。

 

  この二つは概して矛盾する。

 お尻を出して大臀筋とハムストリングスを使えるようにするとお腹が緩んで丹田は作りづらくなる。

 一方、仙骨を入れて丹田を作ろうとするとお尻がしょぼくなって大臀筋やハムストリングスが起動し辛くなる。

   しかし、athletic position で丹田を作ることは可能だし、同様に、タントウ功で大臀筋やハムストリングスを起動させることも可能だ。目指すのは二者の統合・・・

  

  <大臀筋・ハムストリングス> VS  <丹田>

  

  これは太極拳用語で言えば、

  <胯> VS  <腰> 

  あるいは

  <下丹田> VS <中丹田>

  の話に置き換えられる (詳しくは動画参照)

 

  ではどうすれば両者の矛盾を解消し、丹田を作りつつ大臀筋やハムストリングスを起動させられるのか?

 

  骨盤の状態から言えば、

  大臀筋、ハムストリングスを使いやすくするのは骨盤前傾(気味)

  丹田を作りやすくするのは骨盤後傾(気味)

  両者を共に可能にするには、骨盤を立てる!

 

  実は、太極拳には二つのお尻の状態が規定されている。

  一つは骨盤後傾気味(仙骨を入れる系)の 斂臀

  もう一つは骨盤前傾気味(お尻を出した感じ)の 氾臀

 

  なぜか巷に広まった太極拳では斂臀のことしか言われないが、本当は対になって氾臀が存在する。斂臀は丹田に気を溜めやすいが、そのままでは動き辛い(便意を我慢して走るような感じ?) これに対し、氾臀だと足さばきはよくなるが、体感がブレやすくなる。つまり、両方はセットでできるようになる必要がありそう・・・

 

  と、それをズバリと説明していたのが、バレエ整体の専心良治さんでした。昨年か一昨年にブログで紹介したと思います。https://balletdancersenshin.net/ballet-kotsubantateru/

 

 

 ポイントは、

  骨盤上部(腸骨)はタックイン(=斂臀)、

  骨盤下部(坐骨)は出っ尻(=氾臀)

 です。

 

 が、これを実際にはこの状態を会得するのはかなり難しい・・・

 太極拳ではタントウ功や内功で中丹田と下丹田を一体化させる練習が骨盤を立てる練習にもなっているのだけど、それに気づくかどうか?

 

 <以下 番外>

  

 

 上の左側の画像は、養生系の太極拳に見られる形。斂臀を意識して丹田に気を溜めようとすると下半身にロックがかかって股が開かず股関節も開かない(円裆や松胯ができない)。素早く動いたり飛んだり跳ねたりをしなくてよい体操のタイプ。

 一方、右側の武術太極拳と呼ばれるジャンルの形は、氾臀。中丹田の意識は薄く、下丹田、臀部近くの力を使う。これはそもそも先天の気がまだ充実している若者の形。丹田に気を溜める意識がなくても動けてしまう世代。まだ内側の気の世界には興味がない時代かな。

2022/3/18  <アスレティックポジションVSタントウ功 その1>

 

 アスレティックポジションとタントウ功の比較をしてみました。

 動画で説明してみて気づいたこともありました。コメントは後で書きます。

2022/3/14 <アスレティック ポジションの考察 その3>

 

 

 タントウ功と、いわゆる「構え」(アスレティック・ポジション)は、外形的に似ているが、意識の使い方が異なる。ざっくり言えば、タントウ功では意識は丹田、内側へ、「構え」では意識は外側(対象物)に向かう。

上はブルースリーの構えの変遷。(https://togetter.com/li/1264147)

  右二枚は詠春拳の伝統的な構えだが、次第にボクシングやフェンシング、テコンドーなどの要素も取り入れて、実践的な構えに変えていったという。

  右二枚の伝統的な詠春拳の構えとされるブルースリーの姿ではフットワークに重きが置かれていないのが分かる。実践的になるとフットワークに重きが置かれる。敵に合わせて瞬時に動かなければならない。ブルースリーの構えはそう変わっていった。

  

  面白いのは、実践的な構えになればなるほど、ブルースリーの目の焦点がビチっと合うようになっていることだ。右端の写真では、両目はぼんやりと手を見ている。目が弱いから丹田も弱い。右から2番目は右端よりは目が鋭くなっている(内収をし出している)。が、目はただ手を見ていて丹田を内視していない。脚は意識に包まれていない。

  その隣、左から2枚目の構えは転換点だ。テコンドーのような構えですぐに蹴りが出てきそうだ。真っ直ぐ相手を見ている。

  そこからさらに上半身の力を抜いて重心を落とし足先まで繋いだ形が右端の、ブルースリーの最終的な構えだ。体にねじりが入り、両目は相手の全てを見ている。相手はこの目で制される。相手からすればどこから入ってよいのか分からなくなる。攻めてもいけるし受けることもできる。何をするのか分からない構え。もしこの先まだ彼が生きていたら、構えがなくなる境地までいったのかもしれない・・・

 

  ブルースリーの構えの変遷は意識の変遷のように見える。

 

意識は目に現れる。

 

<浅く狭い視野の目>から<深く広い視野の目>へ。

 

中国では”大きい目”よりも”深い目”を褒める。

見通す目には深さがある。

 左の初期のブルースリーの目は素朴な運動選手の目。右の画像の目は武術家の目だ。

 

 太極拳で「目は内収」と言われるのは右のような目に近い。これで視野が広くなる。丹田を内視することが可能になる。(左のブルースリーの目では丹田の内視はできない。)

 丹田を内視しようとするとそれなりの姿勢になる。

 スマホばかり見ていると目(顔)が前に出て猫背になるのと同様、丹田を見ようすると嫌でも肩を引いて姿勢を正さなければならない。

 

 姿勢は目で決まる、(姿勢が崩れる原因は目にある)と聞いたことがあるけれども、日常的に何を見ようとしているで姿勢は変わっていくだろう。

 昔、新宿御苑の近くで自動販売機の下に落ちている(かもしれない)お金を毎日探しているホームレスの男性がいたが、いつも下を見て暮らしているせいか腰が完全に曲がってしまっていた。

 

 本気のアスレテックポジションは目つきまで変える。全てがピタッと決まる。ただ身体のここをどうしろ、だけでは“キマらない”何かがある。それはタントウ功でも同じ。ピタッと決まる場所を探して、そこにできるだけ早く入れるようにするのが練功だ。

 

2022/3/13 <アスレティックポジションの考察 その2

驚愕のジョコビッチ>

 

  昨日載せたジョコビッチ選手の構えの写真について、私が「膝下から足首が真っ直ぐ」と記述したことに対して、それはどういうことなのか?と生徒さんから聞かれた。

 

 

    ん?ちょっと適当に書いてしまった感あり。私的には、内側の勁が足裏を突き抜けて地面へと貫通している、その様を、「真っ直ぐ」と形容してしまったのでした。指摘されると我ながら正確な表現ではないなぁ、と反省。

    

 

「膝下が真っ直ぐ」と聞いてイメージするのは左のような脚なのかもしれない。でも私には脚の関節のどこかにねじりがあって萎縮しているように見えて、”真っ直ぐ”という伸び伸び感のある単語を使い辛いのだ。真っ直ぐ伸びる、のではなく、真っ直ぐで萎縮する・・・左のような脚は老人の脚に似てるかも?

 

ジョコビッチ選手の構えを後ろからみた写真。

 

かなりお尻が突き出ている。両足の開きが半端ない。

最初はそんなところに目がいくのだが、

内側の気の流れをよ〜く見ると、うわ〜、頭の先から足の先まで貫通しているのが分かる。まさに「節節貫通」だ。

 

 このジョコビッチの構えに似ているのが、左の盗塁前のイチローの姿。

いざ走り出すと右側の画像のように背骨が丸くなる。背骨が猫のように動くから一瞬のうちに足裏で地面を蹴ってダッシュができる。背骨が伸びたままだったら足裏で蹴れない。

 

 

上のジョコビッチとイチローの構えを見た後で錦織選手の構えを見ると、足首がねじれていることに気づく。内側の勁が膝下で滞っている。(少なくともこの画像では)

 

背中が丸くお尻(股関節)がジョコビッチやイチローのように最大限に使えていない。そのため腹に気が落ちない(丹田を作ってないように見える)

丹田の気が足首を貫通すると足首のねじりが取れるのだけど・・・。

 

そもそも股関節がの開きが悪いと下腹(鼠蹊部の際)に気を溜めにくい。錦織くんはあまり脚が開かないかも?

 

 と、構えからいろいろなことが分かるのだけれども、これまで特に関心を抱いたことのなかったジョコビッチ選手、構えを見て大いに興味が湧いた。そこでどんな打ち方をするのか検索をしたら・・・おお〜、驚愕的な身体能力! ゴム人間! こんな身体の持ち主とは全く知りませんでした。(以下の画像はhttps://ausaga.blog.fc2.com/blog-entry-990.html から) 比較のために錦織くんの画像も2枚載せました。


 ジョコビッチは身体の内側を繋いで内側から身体を開いている(内側で全身が開通している)。錦織くんはまだ内側の関門が開いていない箇所があるので身体が分断されている。胯の開きがあまりよくない。身体の開き、柔軟性にこれだけ差があると試合で対抗するのはなかなか難しいだろうなぁ。

 

 上の画像のジョコビッチの開脚、そして肩甲骨の開きにもびっくりするが、足首があり得ない角度で曲がったまま打てるのは本当にすごい。足の指一本一本独立してつま先まで気が通っている証拠。普通の人ならとっくに捻挫するか膝を痛めてる。上半身をコンパクトにまとめて(合の状態で)両足を思いっきり開いて打っている画像もある。太極拳で上合下開と言われる体勢。身体のねじりを使って打つ時にそんな体勢が使われるのかなぁ?(師父に聞いてみよう)

 

 以上、最後は打撃の姿勢を見てしまったれども、その前の”構え”、いわゆる”アスレティック・ポジション(ready position)”と言われる姿勢を思い返すと、それらはタントウ功と全く同じではないことが分かる。athletic positionでは丹田を作っている人と作っていない人がいる。そもそも”丹田”を意識しないで作るのが一般的(私が卓球を学んだ時も丹田と言う言葉は一度も聞いたことがありませんでした)。ごくまれに、丹田を作ってしまった人がいる。そういう選手達は他の選手達と異なる道(筋トレではなく柔軟性とバランスの道)と)を進むだろう。(聞かれても本人は無意識でそうやっているから説明ができない。せいぜい、力を抜け、というくらい) 柔軟性やバランス、全身の統合は丹田の道だ。

 

 もしや?と思って、ジョコビッチの筋トレ動画があるのかどうか検索したら、出てきたのはこんな動画。しょぼい! やっぱり・・・大いに納得。やはり、そうでした。あの伸びは丹田がないと出てこない。ジョコビッチのテニスは外家拳ではなく太極拳系のテニスでした。(太極拳の基本練習はしょぼくて有名。昔は派手でかっこいい外家拳の人たちがよく馬鹿にしていたとか。トレーニングしているジョコビッチはかわいく見えます(笑))

2022/3/12 <アスレティック・ポジションの考察 その1>

 

  身体が落ちるのはなぜか? という話の続き。

  昨日のメモの結論は、「(構えた時に)丹田が失われると体が落ちる」ということだった。

  

  ここで、<構え>、<アスレティック・ポジション>についてもう少し考えてみたい。というのは、太極拳のタントウ功や弓歩での練習は<構え>の練習に他ならないのだから。

 

  <構え>というのはこれから力を出そうとして体の準備をした姿勢だ。

  かけっこで、「よ〜い!」と号令をかけられて行う動作。ジャンプをする前に一度沈もうとする動作。バッターがバッターボックスに入って<構える>。いずれにしろ、<構え>はその競技に必要な発力に適したエネルギー蓄積のための体勢だ。

  この<構え>を英語では<athletic position>と言うようだった。

  

  早速<athletic position>で検索をかけると、下のような画像が出てきた。

  あれ?思っていたのと少し違う・・・こんなにお尻を突き出すのか?というのが率直な印象。

が、同じathletic positionとされているジョコビッチ選手の画像を見たら、これは良い、と思った。

 

英語で athletic ready position と書かれている。ただ ready position とも言うらしい。日本語なら「よ〜い、の姿勢」。

身体を折り曲げることによってエネルギーを中心に溜める。合の形といえる。

 

テニスの構えはかなり深い。卓球ならもっと浅く構える。太極拳には蹴り、足技があるから特に実践では浅く構える。テニスに場合はの重いボールを打ち返すからかなりのパワーが必要。バレーボールの構えもかなり深かったはず。

 

 ただこのテニスのような深い構えの難しさはお腹に力が入って丹田が失われがちになること。丹田なしに打つと筋肉に頼った打ち方になるから身体は硬質になり次第に伸びがなくなる。ジョコビッチ選手のお腹を見るとトラのように放松したお腹になっている。これだけ深く鼠蹊部を折り込んでも腹にしっかり気を沈めておけるだけの呼吸力と股関節周辺の柔軟性があるということだ。足裏がビッタリ地面に貼り付いている。地面の力は常に身体を支えてくれる。


 ジョコビッチ選手の構えを見てから錦織選手の構えを見ると、お尻に丸みがない。腹の”松”=丹田の気の量、にも違いがあるのが分かる。足裏も地面に貼りついているというよりは、乗っかっている感じ。地面からの反発力をジョコビッチ選手ほどは得られない。

 

 股間節の開きが理想的だとジョコビッチ選手のように膝下から足首がまっすぐになる。体重が足裏にまっすぐ落ちる。これに対し、錦織選手の方は股関節、お尻周辺の開きが完全ではないので膝から下がまっすぐに繋がっていない。それが足裏の地面の貼り付き感がジョコビッチ選手には敵わない理由だ。

 

 ふと気になって女子を見てみた。大坂なおみ選手(3枚)。ジョコビッチ選手に似た構えだ。身体に柔らかさがある=腹が放松して丹田が作られている。

 ついでに比較として伊達公子選手の画像も載せました。(1枚は40歳過ぎのもの、もう一枚は若い頃) 特徴として背中が丸い(お腹の松で丹田を作っていない。特に40歳過ぎの方の画像)→お尻が使えない=股関節が使いきれない→下半身の力が上半身に伝わらない→筋肉に頼る打ち方になりがち。身体が硬質になります。

 

 athletic positionの核心は丹田だというのが私の考え。先天的な感性でそうできる人もいるだろうが、うまく放松できず力んだままスポーツを続けて身体をかえって痛めてしまった人もかなりいるはずだ。

 似て非なるもの。

 丹田を作っている人の場合は内気がクッションの役割を果たすので身体がそうでない人よりも柔らかくなる(ゴムっぽくなる)。<続く>

2022/3/11 <体が落ちるとは? アスレティク・ポジションの意味>

 

 先週のグループレッスンで気になった「体が落ちる」という現象。「気は落としても体は落とすな!」と言われても最初はなかなかその意味が分からない。

 体が落ちてしまうと「上虚下実」を通り越して上半身の重みで下半身が固まってしまう。内側の勁の通り道がなくなるから(太極拳で最も大事だと言われる)”バネ”がなくなる。

 

   太極拳では馬歩や弓歩など、中腰の姿勢がほとんどだ。

 でも中腰姿勢は別に太極拳に限ったことではない。相撲も中腰、卓球も中腰、アイススケートも中腰、スキーもスノーボードも中腰。そもそも棒立ちではダンスも踊れないし走ることも歩くこともできない。運動には中腰が不可欠・・・

 


 と、ここまで書いて改めて「中腰」を辞書で調べたら、「半ば腰をかがめた姿勢」と書いてあった。右の画像のような姿勢が典型的な中腰姿勢らしい。田植えをするような姿勢? 腰痛になってしまいそうな姿勢だ。

 ・・・ としたら、私が思い浮かべて要る、各種スポーツの中で見る、腰を落として膝が曲がったような姿勢は「中腰」ではない。

  例えば、右の幼い頃の張本くん(https://onopon.blog/?p=671)。

 これは「腰を半ばかがめた中腰」姿勢ではない。

 こういう姿勢をなんと呼ぶのか?

 

 と書いていて思い出した。

 そう、NBAのステファンカリーは「アスレティック・ポジション」と言っていたっけ。

 

 

 右のシュートの連続画像の中の最初の画像(一番左)が、その「アスレティック・ポジション」だ。(https://five-spirits.com/shoot-form/)

 

 太極拳はそのほとんどがこの姿勢でプレーする。時に飛び上がったり、深くしゃがんだり、蹴ったりすることもあるが、それ以外は一番左の姿勢だ。(バスケでもドリブルは一番左の姿勢を維持、結局、スポーツの基本は”athletic position"だ。)

 

 ではアスレティック・ポジションで体が落ちてしまってはいけない、とはどういうことなのか? 下のバレエのプリエ(”折りたたむ”動作)の写真を見ると、どれが”落ちていて”どれが落ちていないのか、分かると思う。

ぱっと見て、右端の子の体が落ちてしまっているのに気づくのではないだろうか?

  落ちると何が問題なのか?

  

  この写真のブログ(https://mizukikazama.com/plie-tips/)には、バレエのプリエの練習の目的は何なのか? ということが下のように書かれている。

 

  

  ただのカタチや膝の曲げ伸ばしではなく、

  一つの動きをしっかりと終わらせ、ジャンプやステップの為のエネルギーを効果的に貯めて、次の動きに滑らかに移行できるようなプリエ。 

 上の写真の右端の女の子はこの後立ち上がるのが大変そう・・・というのは体が落ちてしまっているから。ドスッと体が塊で落ちてしまった。引き上げながら下りていく=引っ張り合いで脊椎を伸ばしながら下りていく、ことができなかった。 

 右から2番目の子は完璧。そのまま楽に伸び上がっていける。

 左の二人の女の子は肩が開けば頭頂まで気が達して頂勁になる。そうすれば伸び上がる時に下半身の力だけに頼らなくて済むだろう。

 

  つまり、体が落ちると丹田が失われる(関節の隙間もなくなる)。丹田がなくなるとエネルギーを溜められない。エネルギーを溜める形がアスレティック。ポジション=タントウ功の形だ。タントウ功は深くすればするほど丹田の気の量は増える。が、ただ体を落として膝を深く曲げただけでは丹田の気の量は増えない。

  

←(また大好きな馬龍を登場させてしまいましたが)、バックハンドドライブを打つ直前に深く沈むその時に丹田に気を溜めている(開合の合)。そして打つ(発勁)。卓球はこの繰り返しだ。

 身体の伸縮運動(バネ運動)で開合が行われているのが見て取れる。決して膝の屈伸運動ではないのに注意。(体が落ちると膝の屈伸運動になる)

 

ドライブを強くかけたければさらに深く沈むことになる。深く沈めば沈むほど丹田に溜める気の量は増える。(とても重い荷物を持ち上げる時に、気合いをいれて深くしゃがんでから持ち上げるの同じ。軽ければそんなに深くしゃがんで持ち上げる必要はない。逆に言えば、深くしゃがんでも丹田の気の量が増えない=パワーがでないのなら、しゃがんでも意味がない。)

 

 結論から言えば、体を落とさずにしゃがんでいくには丹田が頼りになる。

 どんな体勢になっても丹田を失わずにいようとすれば体は落ちず、バネのあるアスレテッィク・ポジションが保たれる。

 やはりしっかり丹田力をつけるのが大事だ。

2022/3/8 <古武術「四股」から学ぶ 肚腰と足>

 

  NHKで放送中の『古武術に学ぶ体の使い方』はとても参考になる。作ろうとしている身体は太極拳で作ろうとしている体と同じだ。タイトルは『古武術に学ぶ体の使い方』だが、正確には、「古武術で使う体の使い方ができるような体の作り方」を教えているのだと思う。

 

 それは太極拳でも全く同じで、太極拳的に身体を使おうとするならそんな体が要る。せっかく技を教えても技にならないのは技を技たらしめるだけの体が作れていないからだ。体が作れていれば技を教えればそのまま技を習得できる。

 マジシャンがトランプやボールで簡単なマジックを披露して、その後でそのタネを教えてくれることがある。知れば、なんだぁ〜、簡単!と思うのだが、もしそれをやって見せろと言われたらすぐにはできない。それなりの手指の動き、腕の使い方が要る。そんな動きができるようになるためには功夫が必要になる。功夫には時間がかかる。

 

 話を『古武術に学ぶ体の使い方』の番組に戻すと、番組は一回、一回がよく考えて作られている。第1回は姿勢、第2回は腹式呼吸、第3回は下半身(股関節)、第4回は肩甲骨、そして先週の第五回は四股・・・あと、手指と”巻く”と”練る”、の三回、全8回で終了だ。

 全ての回にとても有益なエクササイズが数個紹介されている。

 第一回から一回ごとに積み上げていくとかなりの体ができあがる。

 第7回、第8回はまだ見ていないけれども、巻くと練るが入ってくると、太極拳の螺旋チャンスーがイメージされざるを得ない。とても楽しみだ。

 

 先週の四股。これまで私の生徒さんたち数人ににこの番組で紹介されていたエクササイズを試してもらった。

一つ目は”すり足”の練習だ。すり足は、絶対に”ずり足”になってはいけない、とこの番組のテキストには書いているが、実際、生徒さんたちにやらせてみると”ずり足”になっている場合がほとんどだ。(上の画像で左の先生は”すり足”、右の生徒さんは”ずり足”)

  ここで”すり足”と呼ばれているのは、踵を含めた足全体が自分の肚腰(帯脈の内側=丹田)の中に納まって、後ろ足が前に移動する時に内踵にコントロールが効いている状態だ。後ろ足が絶対に後ろに流れない。もし誰かが「行かないで〜!」と自分の後ろ足にしがみついていたとしても、簡単にその後ろ足を前に運んでしがみついている人を前に運んでしまいそうな力がある。これは脚を(股関節からではなく)丹田(肚腰)から動かす練習だ。丹田から足裏までが一つの物体(一つの丹田)として働くような感覚だ。

  

 太極拳では進歩(前進)ですり足にはしないけれども、すり足と全く同じように足(特に後ろ足)をコントロールしている。例えば・・・と、太極拳の動作でいくつか浮かぶが、それは文章で説明するより動画で説明した方が良さそう・・・。

 ともあれ、これができないと太極拳の歩法にはならない。

その次のラインまたぎのエクササイズも足を肚腰から運ぶ練習だ。

肚腰から足を運ぶすり足は、腸腰筋のエクササイズでもある。

左のように手を床においたまま足を上げられないのは腰が硬いから? それもあるが、肚腰に隙間がないと足が肚腰に繋がらない。俯いて言った時にお腹にぐっと力を入れて丹田が消えないようにすると足が運べるかもしれない。俯いてお腹がぺっちゃんこになってしまうと足は絶対動かない。俯くと丹田が作れない? としたら気を下ろす要領が分かっていないのかも・・・→第二回の腹式呼吸に戻る必要あり?

  すり足エクササイズの延長に四股あり。四股は太極拳でいう馬歩、そして弓歩での重心移動の練習だ。肚腰(丹田)と足を繋げないことには四股、弓歩にならない。そしてそれを繋げるには腹まで息を落とせるだけの呼吸力が要る(第二回)。そして、股関節の位置の調整も必要(第三回)。さらに、肩甲骨が正しい位置にないと腰が丸まってしまい、踵と腰が繋がらない(丹田と足が繋がらない)。四股をすれば肩甲骨の位置が大事なのを実感できると思うが、それは太極拳の弓歩の体重移動でも同じだ。

 

  肚腰と丹田を繋げる第五回はそれまでの第一回から第四回までの内容を総動員する必要がある。

  そして、私が生徒さんたちを教えていて感じるのは、脚を股関節から動かそうとすると大腿骨から操作してしまう人がとても多いということ。巷で見る簡化24式のお手本はみな股関節から脚を動かす、と言って太ももの骨を操っている。股関節は腹(骨盤)と太ももを繋ぐ関節。この関節を起動させたければ、腹、腹筋群から動かす必要がある。股関節の下側の骨(大腿骨)から使ってしまうと股関節は回転しない。

  といっても、長年、大腿骨から脚を使ってきた人は腹から脚を使う、といった感覚を得るのが難しい。そんな人には上のようなエクササイズが有効かと思う。一度感覚を知れば、その方向で練習が進む。丹田(腹の隙間、空間)がなぜ必要なのかも分かるかも。

 

  (『古武術から学ぶ』を見逃した人はNHKテキストで参照してみては?とても分かりやすいです。)

2022/3/5

 

 今日の丹田回しのオンライングループレッスンでは4人の生徒さんを教えた。

 竪円、立円、水平円、この三つの円を丹田で描くことができれば太極拳の套路の中の動作のほとんどはできてしまう。推手はこれらの円の練習をしているようなものだ。だから、伝統的には、内功の練習をしながら併せて套路、そして推手の練習をする。内功のベースとなる丹田回しが套路の中の動作でどう使われているのか、それが見えてくると内功の練習に力が入る。もしくは、套路をしながら内功をすることができる。推手をすれば丹田をただ回すといってもそこには重量が必要であることを身を以て感じることができる。すると内功をする時も丹田の重さを求めるようになる。

 

 今日のレッスンで私が興味を持った生徒さんたちの課題があった。

 一つは、どんなに低姿勢になっても身体が落ちてしまってはいけない、ということ。「身体を落とさず気を落とせ!」と師父が注意するところだ。身体が落ちると頂勁がなくなる。頭のてっぺんが落ちてしまうと、身体の伸びがなくなる。伸び=引っ張り合い、がなくなると内勁が得られない(身体の中を貫通する力=勁が生まれない)。

 この問題についてはいずれもう少し深く考察したいところ。

 

 もう一つは、丹田を内視しようとして上目遣いになってしまう問題。そもそも内視とは何なのか、の話にも繋がる。目と脳の関係も関わる興味深い問題だ。これについてももう少し深く考えてみたいと思う。少し時間がかかるかな?

2022/3/3 <二の腕の潜在力>

 

  私自身の最近の練習で目から鱗だったのはある生徒さんが送ってくれたアメリカ在住の徐谷鳴老師の動画。イタリア人の生徒さんたちを教えている動画だが、一緒に真似してやってみて驚いた。二の腕をしっかり肩甲骨に繋いで胴体と一体化させるエクササイズだ。

 

 

 動画の中で徐老師はまず、両手を組ませてその手を思いっきり引っ張り合うこと、それから、逆に押し付け合うこと、を教えている。何を教えているのか? 真似してやってみてなるほど、と思った。

 引っ張り合うことで肩甲骨と二の腕をつなぎ、それから両手を押し合うことで含胸にして腕の内側に気を通す(丹田が作られる)。体から両腕で作った円が”撑”(ボールに空気が詰まってパンパンに膨らんだ感じ)になる。ポンがパンパンになった感じだ。この時に出来上がった腕は胸にも肩にも繋がっている。いや、胴体の中から生えているように感じる。含胸は単に気を丹田に下ろすだけでなく、腕を胴体化するにも必要だったのだとはっきり分かるようなエクササイズだ。

 面白いのはただ引っ張っただけでは”撑”は作り出されない、ということ。引っ張った後で押し付けなければならない。「ただストレッチしても効果はない、収縮させながらストレッチして初めてリリースされる」と言っているのは私が時々参照するyoutuveの山内整体の先生だが、それは、「開の中に合あり」「合の中に開あり」の太極拳にふさわしい、というよりも、太極拳はそうでないと太極拳ではない、はずだ。

 

 その次のエクササイズは、前方に腕をできるだけ伸ばして、それから脇をストレッチする、というもの。脇はかかとまで引き下ろす要領だ。これで指先から踵までが引っ張り合いになる。関節と次の関節までがどこも引っ張り合いになる。そう言っているのが徐老師のジェスチャーから伺える。太極拳の「節節貫通」は関節毎の引っ張り合いすることで生まれる隙間を気が通る現象を言っている。

  

  関節の引っ張り合いによって関節が広がり隙間ができる。その隙間によって気が関節を貫通し骨1と骨2、そして骨3が一体化する。(下の図の引っ張り合いの効果)

  その後、関節を押し付け合いをすると、関節に気(エネルギー)が蓄積される。身体中の関節は全てエネルギー(気)の貯蔵庫になる。

  関節にエネルギーが溜まっている状態で身体を動かすと弾力性のある動きになる。関節自体にエネルギーの弾力性があるからだ。関節は小さな丹田になる。老師たちが丹田からだけではなく、肩関節などの関節から発勁できるのはそのためだ。

  私たち一般の人でも、子供の頃はそんな関節を持っていた。徐々に気が少なくなって関節自体の伸び縮みが少なくなる。丹田に気を溜めるタントウ功をやっていると次第に身体が膨らみ関節に気が溜まるようになってくる。すると本当の意味での節節貫通になる。(長い道のりですが・・・)

  

   そして、発勁の時(力を体外に出す時)には、身体の中心にある丹田から送り出されたエネルギー(気)が関節を通り抜けるごとにその関節に蓄積されていたエネルギーを巻き込みながら、次の関節、そして次へと通り抜けていく。エネルギーは雪だるま式に増えていく。(下↓がそのイメージ図)

 

   ここまでが、上の動画の最初2分間で行なっている単純な動作の説明。ここまでですでにとても大事な太極拳の要領が詰め込まれている。この単純な動作で意図されている内的感覚がしっかり得られているか・・・?

 

 その後のメインのエクササイズも最初から難しい。

 私が自分の生徒さんたちに試してもらったところ、補助なしに徐老師が意図したようにできる生徒さんはほとんどいない。実際、上の動画を見ていると、生徒さんたちはただ徐老師の形を真似ているだけで内側を繋げていない。ある程度内功を積んでいないと(タントウ功の基本的な要領の注意喚起をすれば再現できるレベル)二の腕や肩を操作することは難しいということだ。腰が硬いと二の腕は繋がらない。気(息)が少なくとも丹田まで下ろせないと二の腕は繋がらない。気(息)を踵まで降ろせれば二の腕は繋がるだろう。

 上の動画のようなエクササイズは自分のレベル、教える側からすると生徒の内功のレベルを見るのに役立ちそうだ。内側をつなげる人であれば、帯脈の回転の感覚がしっかりとれるだろう。

 

  腕を上げる動作は特に難しい。仙骨までつながる広背筋を引き伸ばして使う必要がある。l腰の柔軟性、お尻の操作が不可欠だ。後半の90度胴体を回転させて合掌する動作は、太極拳での前後の弓歩での胴体の回転、そして目線と引いた腕の引っ張り合いがこういうものだったのかと理解を促してくれた。弓道で弓を射る前に弓を一杯に引いた動作と同じような体の使い方が太極拳でも用いられているということだ。引っ張り合い、というのが鍵を握る。そして”引っ張り合い”には中心の丹田が必要だ。

  腕を胴体につなげる、というのはかなり大変なことだと改めて知った次第。が、二の腕が使えれば下半身がとっても楽になる。それを生徒さんたちに知ってもらいたくて頑張って教えたのでした。

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『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

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練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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