2023年8月

2023/8/28

 

 前回書いた話。

 『力起于脚跟』と『稍节领,中节随,根节催』。

 

 この2つの原理は真反対のことを言っているのではないかと思う人もいるはず。

 『稍节领,中节随,根节催』を、流派によっては『以手引身』と言ったりもするようだ。

 

 一つ目の『力が踵から起こる』、という原理を『踵(足)から先に動く』としてしまうと、二つ目の原理と矛盾してしまう。一つ目の原理は、”地面からの反発力を得て動く”ということを言っているだけで、どこから動くのか、という順番を言っているわけではない。

 

 これに対し、二つ目の原理はどこから動くのか、ということを言っている。

 私たちの体はまず脳が命令してそれに伴い体が動いていく、すなわち、『意』によって神経がビビビッと繋がることが大前提だ。その『意』は頭部にあるが、それが最も早く届くのは手、それから足などの体の中心から最も離れたところだ。面白いことに、私たちの体は中心に近づくにつれ意識しづらくなっている。末端には末梢神経が張り巡らされ、とても敏感にできている。

 体の中で細胞がおかしな動きをしていても私たちは気づかないが、皮膚を蚊にさされればすぐに気づく。末端に張り巡らされた『意』は五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)に入った情報から形成され神経を通して体を動かせる。

 

 先週から世界陸上大会が開催されているので時々見ていたが、100メートル走のスタートは上の二つの原理がよく見て取れる。

 

 『Set!』(『よーい』)から、『Bang!』(『ドン!』)

 この『Bang!』でスタートをした選手は、どこから動いているのか?

 

 


2023/8/25 <どこから動くのか? どこからパワーが出るのか?>

 

  身体は足から動くもの?

  

  太極拳には『力起于脚跟』という言い方がある。「踵から力が出る」という意味だが、私自身、最初はこれを無意識に、「足から動く」と思っていた。

 

  その一方で 太極拳には『稍节领,中节随,根节催』という言葉がある。

  根節を足、中節(真ん中)を腰、末節(末梢)を手、とすれば、「手が先導し、腰が随い、足が促す(せきたてる)」となる。

  

 

 左の列の2つの図が全身を使った力の使い方だ。

 右の列は応用。

 

 例えば推手は左列の下の図で力を発して動くのが基本だが、実践的には右上のような発勁の仕方をしばしば使う。肩から発勁すれば足りる相手に対して、全身の力をフル稼働する必要はない、ということだ。机の引き出しを引く時に、全身の力を使わないのと同じだろう。

 

 つまり、力は相手に応じてどこを根節(力の出所)にするかは変わってくる。

 これはピアノを弾く人にはわかりやすいかもしれない。

 指先だけで弾くときもあれば、手首からの時もあるし、肘から、そして肩から、と発力の仕方を変えて音色を変えていく。

 根は力の源だ。

 

 動物が獲物を狙って飛びかかる時、まずは目耳鼻(上丹田)が察知し末節が前に飛び出そうとする、胴体(中節)はいっしょについてくる。根節の下肢は末節の動きに随ながらも同時に地面を蹴って反発力を末節に伝えている。

 

 文章で書くと複雑そうだが、ラケットやバットで球を打ったり、足でボールを蹴ったりすればその感覚を確認するのは難しくない。太極拳なら推手で確認できる。それが確認できれば套路で丁寧に勁を通す練習をすればよい・・・

 

 が、なかなかそこまで推手をやりこむ余裕がない場合、ともすると、”末節が導く”ということを知らないまま進んでしまう。

 

 結論から書くと、先に末節が方向を導いてくれないと、根節は力を出せない。足から力が起こるという大前提として、末節(=感覚センサー=上丹田、もしくは、手指)が覚醒していなければならない。

 

 年をとって体が重く感じるのは、体が重くなっただけではなくて、体を引っ張る末節:上丹田、が萎れてしまって体を引っ張れなくなった、というのが大きいだろう。

 

 そのあたりを十分意識して身体開発をさせているのが腰の王子で、あの変顔はただのジョークではない。

 変顔をすることでどのくらい体を変革させているのか・・・

 たとえば、下に貼る、コマネチスリスリの最初の、腕をす〜っとおろして・・・の部分。

 なぜあんな口を縦に広げるような言い方をさせるのか?

 それを省いてコマネチスリスリをしてしまったら・・・

 まず、要の上腕肩甲骨が起動しない、

 腰が落ちて腿裏ハムストリングスが伸びない

 

 つまり、この体操で狙っている効果は得られない。

 何万回繰り返しても同じところをいったりきたりするだけで、身体”開発”はできないだろう。

 

 おそらく、実際に一人であれだけの変顔を真剣にやって練習し続けられる人は稀だ。

 顔と声色を王子とできるだけそっくりに近づけるようにして・・・・そして、そこで気づくだろうか、あの「す〜っと下ろして」の部分で、壁によじ登って見たかった光景が見えた、という表情を伴って動作を行った時に、背骨が上下に伸びることが。

 

 このスリスリ体操では最初に「君の瞳に乾杯」で目線を上に上げて上丹田(眉間)に目を収めさせ、その後、その目が下がらないというお約束のもとに、とんがりコーンをした手を下げていく。この時、王子の指示通りやれば、背骨は上下に伸びる(抜背)。腰も伸びる。

 腰が伸びて初めて股関節や腿裏の開発が可能になる・・・

 

 と、王子の一見簡単そうな体操はとても奥が深いのだが、いつも気づくのは、目や表情、声、などをしっかり使っていること。これが体を牽引するというのをよく知っているからだ。腰を立たせるのも目! 目が腰を引っ張る、と言っても間違えではないだろう。

 

 不機嫌な顔をしていると姿勢が悪くなる。大笑いしているほうが体の中は開くし背骨が運動する。表情、気持ちによって息の仕方も変わってしまう。

 自分が一人でいる時にどんな表情をしているのか?自分一人でもそれとなくニコニコしている人はきっと体の調子が良いのでは? 口角が下がった時点で体の中は閉じて落ちている。体が悪いのではなくて、上丹田、つまり自分の気持ちの持ち具合、目鼻口の使い方に問題があるといっても理解できないことはないだろう。簡単に言えば、意が体を作る、引っ張る、ということ。これを中国では、「意気力」「精気神」などの言い方で表してきた。

2023/8/14 <直立歩行の要は?>

 

   そのうち人間の労働は全てロボットにとって代わられてしまうかも? という生徒さん達の会話を聞いて、現時点でロボットはどのくらい人間の動きに近づいているのかなぁ? アシモ君からどのくらい進化してるんだろう? と興味が湧きました。

  アシモ君からはるかに進化しているアトラス君。

 他の動画を見ると、前転も宙返りもできる・・・すごいすごい!

 

 が、一つだけ気になるのが、腰が伸びない、膝が伸びない・・・・

 完全な直立歩行ができない。

 

 

   アトラス君はまだ上半身と下半身が分断している。

 股関節から脚を使っているから、見方によっては膝下で蹴っているようにも見える。

 重心が低い・・・というよりも、体(胴体)が落ちてしまっている。

 重量感が半端ないのは引き上げ(下から上に引き上げる力)がないからだ。

 

 それに比べるとボルトの体は引き上がっている。

 頭頂に向かって上向きの力が存在している。太極拳ではこれを『頂勁』というが、それは、重力に従って頭から足裏まで降りた力が反発力によって足裏から頭頂へと自然に上がるからだ。これは気(エネルギー)の昇降で、気功法では、『周天』と呼ばれている。

 

 つまり、アトラス君は上から下向きの力のみで体を使っていて足裏から地の気を得ることができない(反発力を得られない)。頭頂へとエネルギーが貫通して頭が立ち上がるのが直立歩行の醍醐味で、それによって私たち人間は脳(と手)が他の動物の比にならないほどの発達を果たした。上丹田の発達は直立歩行の極みだ。

 

 子供の動きを見ると、人間のもつ本来の形、動き、その可能性を学ぶことができる。

 ↑上の少年はどのように走っているのか?  お父さんが背中を摘んでいるのはなぜ?

 

 ↓下のカンフーの男の子は凄過ぎて、フェイクか? なんて思うほど。

 

  カンフー少年の馬歩とアトラス君の姿は似て否なるもの。

 

 

 カンフー少年は背骨と腰の力を抜いて(抜背・松腰)、骨盤全体の力を使っている(寛骨=胯、坐骨、仙骨、会陰、フル稼働)。アトラス君には股関節はあるが、骨盤が形成されていないため、太ももの前側に大きな力がかかる。足が地面を踏んづけてしまうので反発力が得られない。

 で、一体、直立歩行の利益を得るための要になるのはどこなのか? 少年とアトラス君を見比べて気づくのは、腸腰筋(丹田)のあるなしだ。

 

  腰が使えないというのは腸腰筋が使えなていないということ。

  体が落ちてしまう、引き上げが足りない、というのも腸腰筋がうまく使えていないということ。

  腸腰筋は上半身と下半身をつなぐ要。骨盤をまとめて骨盤力として使うにも腸腰筋が要となる。

 

  もちろん、うちの師父は腸腰筋なんていう言葉は使わない。『丹田』という。

 『丹田』をつくると腸腰筋が効果的に使えるようになる。

 『丹田』がなくて腹が凹んでしまうようでは腸腰筋は使えない。

 

 そういわれてみると、アトラス君などのロボットには”腹”がない?(上のボルトも少年たちも腹が活性化しているが、アトラス君は・・・?)

 人間は筋肉だけでなく、そのもっと中の空間を使っている。空間がないと内臓がひっついてしまう。丹田を作る、というのは、臓器のためにも大事だ。

 腹が凹んでしまわないようにする、腹に張りを保つ、というのは養生法としても大事だ。

 

 椅子に座っている時に腹が凹んでいないか?

 ものを拾おうとかがんだときに、腹が凹んでいないか?

 

 そんなふうに日常生活で常に丹田を保つ練習をしたいもの。

2023/8/9 <首の脱力から腕を垂らす 上丹田の作用>

 

   今週は<首の脱力、ストレッチから、沈肩を作り、腕が肩先から”垂れる”状態>を作り出すことを教えていました。

  首!

  首が緩まないと肩は楽にならない(放松できない)。

  首が自然な良い位置にないと肩の位置もよくない(当たり前か・・・)

 

 で、大事なのは、腕は首から繋がっている、ということ。

 腕は肩からぶら下がっているのだけれども、ちゃんとぶら下がっていれば、使う時は首から(正確には耳の後ろあたりから)使う感覚になる。

 その感覚を味わってしまうための

  <首の脱力/ストレッチ→沈肩→肩峰から腕がぶら下がる>という事前準備。(具体的なやり方はここでは割愛)

 

  最後の腕がぶら下がる感じが分かれば『沈肩』はほぼ完成。

  (例に漏れず、『沈肩』には程度、レベルがあります。できるか否か、の二者択一ではない。含胸、松腰、気沈丹田、頂勁・・・すべて同じ。そもそも、放松自体がレベルの問題)

 

 

  首を緩めて沈肩をして腕を垂らすと頭頂がニョキっと出てくる→頂勁

 

 今日のオンライングループレッスンでも、沈肩からの頂勁を体験できた人がいました。

 肩峰が落とせるくらい(腕が切り離せるくらい)沈肩ができれば頂勁(頭頂に向かって勁が通ること)が起こる。

 

 スワイショウ( 甩手)や、劉師父が毎日欠かさない拍手功でも同様の効果を得ることは可能。もちろんタントウ功は最強。

 ただ、一度、無理やりにでもそれに近い状態を体験しておくと、スワイショウや拍手功、その他の功法ででも首や肩を緩める感覚を得られやすいと思います。

 

 首肩腕の力が抜けると、下半身の使い方もおのずと変わってくる・・・腰の力も抜けて、骨盤や股関節の動きにも影響が・・・(そういえば、骨盤と股関節の動きの関係について結論を書かずに放っていました。気が向いたら書きます。)


2023/8/3 <股関節と骨盤の動き 骨盤を動かさないようにする? その1>

 

  股関節の使い方を間違えるとさまざまな問題がでてきます。

  太極拳で最も多い故障は膝、股関節、そして腰。

  股関節がうまく使える人は体全体の操り方も上手。

 

  そもそも股関節はどのように使うべきなのか?

  そこから遡って考え直してみるとよいかと思い動画を撮りました。

 

 「股関節を動かす時に骨盤は動かすのか?動かさないのか?」

 について動画ではダイレクトな回答を言っていません。

 動画を見て、まずは自分で検証し考えてみるのも練習の一部かと思います。

動画適宜アップ中! 

YouTubeチャンネル『スタディタイチ』→こちら

『今日のメモ』毎日の練習は気づきの宝庫。太極拳の練習の成果が何に及ぶかは予測不可能。2012年9月〜のアーカイブは『練習メモアーカイブ』へ

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練習のバイブル本

 『陳式太極拳入門』

   馮志強老師著

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2012/3/20

日本養生学会第13回大会で研究発表をしました。

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